第30話 将来のこと

「将来のことを考えた時に、仕事にするなら自分の生涯を掛けても後悔のない仕事がしたいって思ったんだ」


「……オレたちとの動画制作じゃ、お前をそこまで熱くできなかったってことか?」


「楽しかったのは本当だ。

 でも……命を懸けて本気でやりたいって想いにはなれなかった」


 包み隠さず正直に伝える。

 二人は一緒にやってきた仲間だから伝える言葉に嘘はない。


「命を懸けて……か。

 僕はそこまで考えたことないけど……でも、働くって一生のことだもんね」


 俺の真剣な想いを感じ取ったのか、相楽は納得するように言いながら、柔和な笑みを俺に向けている。


「……本気なんだな」


 これ以上、俺を引き留められないことがわかったのだろう。

 見たことがないくらい真剣な顔で、自由みゆが俺に真っ直ぐ目を向けた。


「一つ聞かせてもらっていいか?」


「ああ、変にわだかまりが残るくらいなら、なんでも聞いてほしい」


 俺の言葉に自由みゆは頷く。

 それから少し考え込むような間があって、


「……優雅が本気でやりたいことっていうのは――もう見つかったのか?」


 そう尋ねてきた。

 聞かれるかもしれないと思った。

 いや、自由みゆの立場なら聞いて当然だろう。

 だから、


「――見つかった」


 俺は迷うことなく答えた。

 描世さんという天才を通して、刺激を受けて――燻っていた感情に火が灯った。

 彼女を応援したいという想いも本当だ。

 世界中の人たちに、彼女の作品を見てもらいたい。

 だけど――それは俺自身が何かを成し遂げるわけじゃない。

 俺自身がクリエイターとして、何か作品を送り出すのにはまだ時間が掛かると思う。

 俺は絵が描けるわけでも、物語を作れるわけでもないから。

 だけど、必ず俺もいつかその舞台に立って――彼女の隣に並んで歩きたい。


「もしダメだったとしても、後悔なんてしないって思えるくらい、本気で挑戦したいって思える場所だ」


 そう伝えると、自由みゆは「はぁ……」と諦めるような溜息を吐いて何度か頭を掻いた。


「そこまで迷いなく言われちゃ、もう俺から言うことはねえな。

 相楽はどうだ?」


「僕も同じ気持ちだよ。

 優雅がしたいこと、見つかったならそれを応援するよ」


 自由みゆも相楽も、俺の話を真剣に聞いて、快く応援してくれた。


「だけど、途中で戻ってきたいなんて言って遅いからな。

 まあ、たまにゲスト出演くらいならさせてやってもいいけどさ」


「な~んて言って、僕らのほうが優雅に頼らないようにしないとね」


「うぐっ……そ、それは……まぁ、な」


 俺たち三人は笑い合った。

 だけど、舞花だけは……どこか納得できないような顔をしている。


「舞花?」


「……三人は、本当にいいの?」


 その声には苛立ちにも似た感情が含まれているのがわかった。


「いいって言うか……仕方ねえっていうか」


「うん。

 優雅が本気なのは伝わってきたからね」


「男なら本気になってるダチを応援してやらねえとさ」


「――でも、まだワーズを見たいって人たちもいるのに!」


 傍で見てきた舞花だからこそ、俺たちの解散を惜しんでくれるのはわかる。

 でも、


「舞花……なんでそんなに怒ってるんだ?」


 ただ、疑問に思ってしまった。

 でも舞花は俺にそれを伝えられると、


「っ――バカ!! 優雅のバカ!! もういい!!」


 隠そうともしない、明らかな怒りを俺に向けると、舞花は部屋を飛び出して行った。

 残された俺たちは、当然のことに呆然としてしまったけど、


「舞花ちゃん、どうしちゃったんだろう?」


 相楽の戸惑いはもっともで、俺も自由みゆも同じことを思っていた。

 だが今はそれを確かめる為にも、舞花を追うのが先だろう。


「す、すまん――ちょっと行ってくる」


「あ、ああ! 頼んだ」


 自由みゆの言葉に返事をすることなく、俺も部屋を飛び出したのだった。

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