第29話 自由と愛楽

     ※


 そして翌日――俺と舞花は予定通り、自由みゆの家に到着した。

 玄関のチャイムを鳴らすと扉が開かれる。


「う~っす、いらっしゃい!」


 陽気な笑みを浮かべた自由みゆの姿が見えた。

 招かれるままにお邪魔して、自由みゆの部屋へ入る。

 すると、もう一人のメンバーである幸城相楽ゆきしろあいらも既に待っていた。


「優雅、久しぶり~!」


 そして相楽は人懐っこい笑みを俺に向けてくる。

 昔から子犬っぽいと言われていたが、それは高校入学以降も変わっていないようだ。

 小学校からの同級生で幼馴染の三人で組んだ配信グループ――それがワーズオブスマイルだ。


「これでワーズのメンバー、全員集合ね」


 ずっと俺たちの活動を見てきたからこそなのか、舞花はどこか嬉しそうだった。


「バッチリ、企画も考えてあるぜ!」


 そう言って自由が俺と相楽の肩に腕を回してくる。

 これが少し前の俺たちの日常。

 そのはずなのになんだかすごく懐かしく感じる。


(……好きだったんだよな、俺は……)


 自由みゆに誘われて始めた配信活動。

 自分の生活の一部になるくらい、楽しんでやっていた。

 でも本気で好きなことが何なのか――それを自分自身に説くなら、やはり俺はゲームやアニメ、漫画やラノベ――に関わる創作活動がしたい。

 だからこそ、今後についてちゃんと考えなくちゃいけない。


「どうしたの? なんかさっきから元気ない?」


 口数の少ない俺を見て、相楽が心配そうに尋ねてきた。


「そうじゃないんだ。

 ただ……動画を撮る前にみんなにちゃんと伝えておきたいことがある」


 俺の言葉に、自由みゆが組んでいた肩を解く。

 そして俺の顔を見た。


「……動画、撮った後でもいいんじゃね?」


 ワーズのリーダーである自由みゆには、軽く事前に話していたこともあって、俺が何を言うのか察したのだろう。


「悪い、自由みゆ……でも、もう決めてるんだ」


 迷いはない。

 その本気が伝わったのか、自由みゆは一度目を閉じて困ったように笑った。

 昨日、話していた舞花も俺が何を話すのか、なんとなく気付いたのかもしれない。

 でも、仕方ないねという言うみたいに寂しそうに笑う。


「近いうちに俺はワーズの……動画配信者としての活動を引退するつもりだ」


「引退って……もう二度と一緒にはやらないってこと!?」


 びっくりした様子で相楽は俺の肩を掴んで、ガクガクと揺さぶってくる。


「まぁ……そうなるな」


「せめて、もう少し考えてみてもいいんじゃねえか?」


 自由みゆは、やはり俺を引き留めたいらしい。

 その気持ちは嬉しく思うが、


「ワーズの活動も楽しかった。

 でも、もう俺たち高校生になってさ……近い将来――働くようになるだろ」


 三人は俺の話を黙って聞いてくれる。

 だから俺は続けて口を開いた。

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