第28話 優雅と舞花

     ※


「……ありがと。もう、平気だから」


 舞花が俺から離れる。

 やっと落ち着いてきたようだ。


「……ダメだね、私……全然、立ち直れてない」


「そんなことない。

 舞花は頑張ってる……ずっとお前を見てた俺が保障する」


「そうだと、いいけど。

 結局、今もこうして、優雅を頼ってばかりだから」


「頼ればいいよ。

 俺に出来ることがあるなら、いつでも」


 舞花は俺にとって、家族みたいなものなんだから。


「……うん。ありがと……優くん」


 感謝の言葉を伝えながらも、舞花はぽ~っとぼんやりした顔で俺を見つめる。


「まだ寝惚けてるか?」


「な、なんで?」


「ぼ~っとしてるみたいだったから」


「そ、そんなことないわよ」


「なら……いいけどな」


 少しずつ舞花の調子が元に戻っていた。


「……そうだ。ずっと俺を待ってたって聞いたけど……何か用があったのか?」


 突然の状況に忘れかけていたが、元々はその話をするつもりだった。


「そうだ 遊飛(ゆうひ)から連絡があって……」


 舞花が名前を出した遊飛(ゆうひ)というのは――ワーズオブスマイルのリーダーだ。

 普段から俺に直接連絡が入るはずだが、なぜわざわざ舞花に連絡したのだろうか?


「明日、揃って収録したいから、優雅を引っ張ってでも連れてきてほしいって」


「……わざわざ舞花に頼んだのか……」


「高校受験も終わったわけだしさ……また手伝ってあげてもいいんじゃない?」


「少しならともかく、相当な時間拘束されるからな」


 動画を撮る場合、休日一日潰れるなんてザラだ。

 ライブ配信も同様で、配信活動はとにかく時間が掛かる。

 ただ撮ればいい、ただ配信をすればいいというわけじゃない。

 見てもらう為の企画、戦略を考えなければ見てもらうことも難しい。


「……忙しいの?」


「少なくとも、余裕があるってわけじゃないな」


 今日、描世さんからイラストのデータを預かってきた。 

 それを使って、イラストサイトの予約投稿を済ませたり、SNS用の投稿文章やタグも考えて、月曜日には世界中の二次元コンテンツを愛する人たちに、描世さんの絵を見てもらえるようにしたい。


「……じゃあ、断る?

 優雅が嫌なら、私からも言っておく」


「……嫌ってわけじゃないんだが……」


「ワーズのファンは、みんなが揃ってるところをもっと見たいと思うけどな」


 それを言われると弱い。

 受験が終わって以降、ワーズが全員揃った生配信や動画は一度もあげていないのだ。

 楽しんでくれるファンがいるのは事実で、ならその人たちに応える責任はある。


「……わかった。昼頃、少しだけど顔は出すよ」


 今日のうちに、ある程度の準備は整えておこう。

 それにワーズオブスマイルの活動を控えるなら、そのことをもっとみんなと話しておかなくちゃならない。

 だからこそ会うなら早いほうがいいだろう。


「なら十一時くらいに迎えにくるから。

 ちゃんと出掛けられるようにしておいてよね?」


「舞花も来るのか?」


「一応……連れて来てほしいって言われたのは私だからね。

 その責任はあるでしょ?」


 妙な責任感を発揮しているが、それは多分……舞花自身がワーズオブスマイルの活動を見たいからなのだろう。

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