第27話 俺が優しくしたいから

     ※


 帰宅後。


「あ、お兄ちゃん、やっと帰ってきた」


 妹が珍しく出迎えてくれた。


「なんだ? お兄ちゃんが恋しかったのか?」


「今月で一番気持ち悪いセリフをありがとうだよお兄ちゃん」


「辛辣すぎるだろ!

 それで……何かあったか?」


「何かあったかじゃないよ!

 舞花お姉ちゃん、部屋で待ってるよ?

 連絡あったでしょ?」


「え……?」


 連絡なんて……と、スマホを見る。

 と、三時間ほど前に、何度か着信が入っていたようだ。


(……マジか? 全然気付かなかった)


 描世さんとの話に集中していたことや、天動監督も含めた突然の食事会で、スマホを全く見ていなかった。


(……何か用事でもあったのだろうか?)


 舞花とは家が隣の幼馴染。

 両親同士の仲も非常に良い。

 互いの家に行き来するというのは、昔からよくあることだった。

 小学校の時は、舞花の両親が忙しいこともあって、うちで夕食を一緒に食べたりなんてことも頻繁にあった。


「直ぐに部屋に行ってあげて」


「わかった」


 妹に背中を押されて、急かされるままに俺は部屋に向かった。

 扉を開く――と、


(……寝てるし……)


 パジャマ姿の舞花は俺のベッドで横になっていた。

 人のベッドを勝手に使うのはいつものことではあるが――随分とぐっすり眠っている


(……ここ一応、男の部屋なんだけどな)


 俺が異性だなんて、舞花は意識してないか。

 俺たちは幼馴染で家族みたいな間柄なんだから。


「でも、それにしたって……無防備過ぎだろ」


 安らかな寝息を立てながら、起こすのが可哀そうになるくらい、気持ちよさそうに眠っている。

 だが、流石にこのままってわけにもいかないだろう。


「舞花、起きてくれ」


「ぁ……ぅ……」


「舞花……」


 舞花がゆっくり目を開いた。

 だが、目がとろんとして、意識はまだ微睡んだような顔をしている。


「ん……ぁ……ゆう、くん……?」


「そうだ。……大丈夫か?」


「うん……大丈夫。

 ……優くん……来て、くれたんだね」


「ああ、帰ってきた――って、おいっ!?」


 突然、舞花が俺の首に手を回すと、ぎゅっ――と腕に力が入った。

 その拍子に、彼女に重なるように、ベッドに倒れ込んでしまう。


「優くん……信じてた、よ……」


 彼女の細腕に力が入り、舞花の体温を感じる。

 同時に、華奢な身体が震えているのがわかった。


「……舞花、大丈夫だ。

 俺はここにいるよ」


 彼女の頭を優しく撫でる。

 身体の震えが止まるまで、寄り添いながら。

 それから暫くすると、舞花の身体の震えが止まっていた。


「……もう、目は覚めたか?」


「ごめん」


「謝ることなんて、何もされてない」


「……そんな、優しいこと、言うな」


「いいだろ。

 俺が優しくしたいんだ。

 勝手に優しくさせてもらう」


 そう言って、彼女の頭をまた撫でる。


「っ……バカ……優雅の、バカ……」


 罵倒しながらも、舞花は拒絶はしない。

 俺は彼女が落ち着くまで、ずっとそうしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る