第25話 叶えたい夢
※
それから30分ほど時間が過ぎた。
寿司は、美味い。
美味いのだが、描世さんも天動監督も思っていたよりも食べない。
「ご馳走様です。
ごめん、ちょっと席を外すわね。
思いついたことがあって……」
そう言って、描世さんは部屋に戻った。
何か描きたいものが思い浮かんだのかもしれない。
そして、俺は天動監督と二人きりになった。
「ねえ……優雅くん、質問してもいいかな?」
お酒に酔っているのか、天動監督は先程よりもぽわぽわしている。
「なんでしょうか?」
「学校での絵真ちゃんって、どんな感じ?」
思ってもいなかった質問で、直ぐに答えられなかった。
まだ俺は描世さんに出会ったばかりで、彼女の全てを理解しているわけじゃないから。
「難しく考えなくていいよ。
優雅くんから見た感想でいいの」
ただの興味本位ではない。
多分、天動監督なりに、描世さんのことが心配なのだろう。
「……あまり積極的に誰かと話してはいないと思います」
「あ~やっぱり、そうだよね。
なんとなく予想はできた」
率直な意見に、天動監督は苦笑した。
「でもコミュ力がなくて話せないとかでもないんだと思います。
受け答えもしっかりしてて、相手を気遣えるというか……共感性は高いのかなって」
教室で舞花と話した時も、絵の話をしていたことは伏せて、上手く対応してくれた。
相手の気持ちになって考ることや察する力も高い。
「描世さんって、優しいんですよね、きっと……。
だから……積極的に友達を作ろうとはしないと思います。
人付き合いって時間が掛かりますから。
目標が明確な描世さんからすると、誰かと仲良くなりすぎて交流が増えるのは避けたいのかも」
断ってばかりじゃ悪いから。
なら……最初から深く付き合わなければ、相手を傷付けずに済む。
描世さんならそんな風に考える気がする。
「……ずっと焦ってるんだろうな。
あの子には叶えたい夢があるから」
夢……か。
描世さんは描きたい理想の世界があるって言ってたよな。
それがどんなものなのか、天動監督は知っているのだろうか?
「目標の為に一生懸命ですよね」
「うん。
絵真ちゃんの絵にかける想いは本物だから……でも……」
一度、逡巡するような間があった。
伝えるべきか悩むような。
だが、俺を見ると優しく笑って、大動監督は話し始めた。
「本気だからこそ……失くしちゃいけないものまで、切り捨てちゃいそうで心配なんだよね」
「……それは……」
もしかしたら、そういうことが必要な時もあるかもしれない。
俺にはまだわからない。
でも、夢が憧れではなく目標であるなら、それが何を捨てでも欲しいなら、描世さんは迷わない気がする。
「……ねえ、優雅くん」
「?」
「絵真ちゃんのことよろしくね。
もしあの子が間違えそうになったら、ちゃんと言ってあげてほしい。
キミの考えでいいから伝えてあげて。
それが、色々なことを考える切っ掛けになるかもしれないから」
保護者として、家族として、大動監督は描世さんのことをしっかりと考えている。
その想いは十分に伝わった。
もしそうなった時……俺に出来ることなんて、何かあるんだろうか?
絶対になんとかするって自信はない。
でも、
「どれだけ力になれるかはわかりません。
でも、俺に出来る限りのことはしたいって思ってます」
正直な想いを伝える。
それが天動監督に対しての誠意だと思ったから。
「うん……ありがとう優雅くん。
それを聞けただけで、ボクは心から嬉しく思うよ。
絵真ちゃんと仲良くなってくれた人が、キミでよかった」
酔った勢いで出た会話の照れ隠しなのか、天動監督は空のコップを煽る。
それから食事を完食するまで、俺は彼女が監督したアニメの裏話などを色々と聞かせてもらうのだった。
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