第23話 家族
※
突然の来訪者の登場から暫く時間が過ぎた。
「あ……もう十七時になるのか」
「あっという間に時間って、過ぎちゃうわよね」
今日は描世さんの作品を色々と堪能させてもらえたことで、充実感のある一日を過ごすことができた。
「そろそろ、帰る?」
描世さんはどこか寂しそうな口振りだった。
でも、それは俺も同じだ。
話すことは尽きないし、名残惜しい。
だが、あまり長居するのは迷惑だろう。
描世さんが絵を描く時間を奪うことにもなってしまう。
(……SNSやイラスト投稿サイトをどう活用するかについても話すことができた)
今後はネットを使って、彼女の絵を広めていくことができる。
話したいことは話せた。
なら、ここらで解散するべきか。
――コンコンコン。
軽めのノック音が部屋に響いた。
「絵真ちゃん、いい?」
続けて扉の外から天動監督の声が聞こえる。
「……からかいに来たの?」
先程のこともあってか、描世さんは警戒心を強めている。
「違う違う! お姉ちゃんから二人に、スペシャルな提案がありま~す!」
なんだか少し不安になる。
描世さんも同じことを思ったのか、俺たちは互いに目を見合わせた。
部屋を開けてもいいものか……と。
「あの~天動監督……俺はそろそろお暇しますので、お構いなく」
「えっ!? もう帰っちゃうの?
あと優雅くん、監督はいらないよ~。
気軽に新って呼んで」
「なんで名前呼びなのよ! 保護者なのに距離感おかしいでしょ!」
保護者として、母親としてということなら、名前呼びも別におかしくはないように思う。
「いいじゃ~ん!
ボクも優雅くんと仲良くなりたいんだよぉ!」
全く真意が見えてこない。
冗談のようで本気で言ってるようにも感じる。
描世さんが自由人と言うのも頷ける。
「って、それは一旦置いておいてさ、実はお寿司を取っちゃった。
もう夕飯時だしさ、みんなで食べよ?
「えっ!? それ普通、頼む前に聞くことでしょ?」
「あれ? 優雅くん、お寿司嫌いだった?」
「そうじゃなくて……」
天動監督に振り回されながら、描世さんは俺に「ごめん」と手を合わせていた。
だが、全然問題ない。
「俺なら時間は大丈夫ですよ。
それに、寿司も好きですから!」
「ならよかった!
老舗江戸前寿司の美味しいの頼んでるから!
今日は絵真ちゃんが初めてお友達を連れてきた記念だよ!」
好きと言っても回転寿司くらいしか食べたことなんてないんだけど……。
なんかすごく高い奴だったりするのだろうか?
――ピンポ~ン
チャイムが鳴った。
「あ、届いたみたい!」
扉の向こうから、バタバタと走っていく音が聞こえた。
「……なんか、急にごめん」
「いや、寧ろ気を遣わせちゃったみたいだな」
「多分……新さんなりに、歓迎してくれてるんだと思う。
……私、友達連れてくるの初めてだから……」
少し気まずそうな、照れたような感じでもじもじとする描世さんが可愛らしい。
だが自分の身で考えると、いきなり保護者も含め食事というのは確かにちょっと恥ずかしい気がする。
「ちょっと掴みどころはないけど、いい人だよな」
「……うん」
返事と共に、優しい顔で描世さんは笑った。
その顔を見れば、二人の間にしっかりとした信頼関係があるのは一目瞭然だろう。
「絵真ちゃ~ん、優雅く~ん! 届いたよ~! すっごく美味しそうだから、早く早くぅ~!」
もう我慢できないと待ち侘びるように、俺たちを呼ぶ声が聞こえる。
それに苦笑して俺たちは部屋を出たのだった。
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