第21話 ペンネーム

     ※


「とりあえず、今日はこんな感じでいかな?」


 一通り運用方法を決めたところで、俺はその言葉を切り出した。

 気付けばもう夕方になっている。

 あっという間に時間が過ぎていた。


「アカウントも取ったから、明日から活動開始ね!」


「だな。

 まずはさっき見せてもらった画像を投稿していくから」


 イラスト投稿サイトにアップ。

 その後、SNSにも投稿していく。

 当然、個人情報に関わることは一切記入しない。

 管理は俺の方に任せてもらう。

 クリエイターのモチベを落とすようなアンチは一掃だ。


「あとはペンネームだけど……」


「それはちょっと悩み中」


 候補はいくつかあるみたいだ。

 が、今後活動していく名前になるのだから、しっかりと考えたいのだろう。


「あ……話は変わるんだけど……」


「うん?」


 描世さんは立ち上がって、PCのある机に座る。


「こっち、来て」


 そして、椅子をくるりと回転させると、俺に手招きする。

 俺も立ち上がり、彼女に近付いていく。

 それに合わせて彼女は何かのソフトを立ち上げた。


「これって、アフターエフェクト!?」


 アフターエフェクトというのは、アニメ制作でも使われている動画を作成することのできるソフトだ。


「うん。

 少し前から作ってたんだけど……こういうのって、SNSで上げられたりするの?」


 カチっと、キーボードを押す音が響いた。

 PCのディスプレイに表示されていた絵が動き始めた。


「!?」


 神作画のアニメーション。

 しかもカロリーの高いアクションシーンだ。

 細かく動いたかと思えば、アニメらしい抜きの動きで、キャラクターがノビノビと、生きてるように描かれている。

 有名アクションアニメーターが描いたと言われても、全く見劣りしない……それどころか、超えているんじゃないか!?

 あまりにも圧巻過ぎて目を離せない――でも、感動の時間は長く続かなかった。


「1カットだけなんだけど……どうだった?

 枚数はそれなりに描いてはいるんだけど……」


「どうも何も、こんなのやばすぎるでしょ!

 これ、一人で作ったの!?」


「か、肩……そんな強く掴まないで、あと、顔が近い……」


「ぁ……ご、ごめんなさい」


 飛び跳ねるように後ろに下がる。

 だけど、俺の興奮が冷めることはない。

 こんなとんでもない隠し玉を見せてくれるなんて。


「他に作ったアニメってある?」


「こんな感じの一カット、二カットなら。

 でも、丸々一本のアニメってなると、昔のになっちゃう」


「それって見てもいい?」


「……今見せるのは、ちょっと恥ずかしいかな。

 本当に子供が好きで作りました……みたい作品だから」


 猛烈に気になる。

 だが、本人が見せたくないなら、無理強いするわけにはいかない。


「だとしても、めっちゃすごいよ!

 子供の時っていつ?

 一人でアニメ、全部作っちゃったの?」


 ぐっ――と、優しく彼女の手を握る。

 この手が、神作品を生み出している。

 そう思うと、無性に崇めたくなってしまった。


「っ……」


 息を飲むような声が聞こえた。

 描世さんの顔が赤みを帯びていく。

 握っている手まだ熱くなって、汗ばんでいく。

 緊張しているのだろうか?


 ――ガチャ。


「?」


 扉が開く音が聞こえた。

 かと思えば、


「ただいま~絵真ちゃん。

 愛しのお姉ちゃんが帰ってきたよ~」


 陽気な声が聞こえたかと思うと、ばっ――と勢いよく誰かが入ってきた。


「あ、新さん……!?」


「え……? 男の子――って、優雅、くん!? なんでうちにいるのっ!?」


 入ってきたのは俺も知る人物。

 というか、先日顔を合わせたばかりの人物。


「天動監督っ!?」


 どうして、あの天動監督がここにいるのか。

 意味がわからず、描世さんと天動監督、二人の顔を交互に見る。

 全員がこの状況に戸惑う中で、


「う~ん……」


 と、天動監督は腕を組み唸った。

 そして、


「この状況は……優雅くんが、絵真ちゃんに……いかがわしいことしようとしてる!?」

「ち、違うから!」「してませんよ!」


 否定の声が、同時に室内に響く。

 そんな俺たちの慌てた様子を見て、天動監督はニヤッと、小悪魔っぽい笑みを浮かべるのだった。

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