第20話 多くの人に届ける為に

「無理だけはしないでね。

 ぁ……ネットに絵を上げるなら、ペンネームとか、決めたほうがいいのかな?」


「そうだな。

 本名で活動してる人もいると思うけど……基本的にはペンネームが多い、か?」


 イラストレーターはペンネームが多い印象がある。

 アニメのエンディングを見る限り、アニメーターは本名が多そうだ。

 デザイナーや絵本作家などはどうなのだろう?

 多かれ少なかれ、どの仕事も人によるといえばそれまでだと思うけど。


「まだ学生の身分だし、ペンネームのほうがいいよね?」


「そうだな。

 不用意なことを書くと、身バレにも繋がるかもだし」


「その辺り、顔出ししてるビーチューバ―さんは大変ね」


 冗談めかして言う描世さんに、俺は苦笑する。


「身に染みてるからこそ、な。

 その辺りは徹底するつもりだけど、万一、変な追っ掛けでも出来たら心配だ」


「本当に、色々と考えてくれてるのね」


「キミの邪魔になるようなことになったらイヤだからな。

 多くの人に絵を見てもらえる場を作って、描世さんのファンになった人も、キミ自身も、それに俺も全員、嬉しい!

 みんなが楽しい気持ちになれる、そういう場所にしていきたい」


 俺の考えを伝えて、理想を共有していく。

 描世さんの作品には人を感動させる、救う力がきっとある。

 俺はそう信じているから。


「みんなが楽しい気持ちに……か。

 そうなったら、いいな。

 私は私の為に絵を描いてるけど……誰かに喜んでもらえるのって、やっぱり嬉しいもの」


 夢を語る俺を見て、描世さんは楽しそうに笑った。


「それを教えてくれたのは、あなただよ。

 本気で応援してくれる人がいるだけで……前よりももっと頑張れるって思えるから」


「描世さん……」


 こうして俺と話している間も、彼女の時間を奪ってしまう。

 そんなことに時間を使わせるなら、もっと彼女は自由に絵を描いたほうが、よっぽど為になるんじゃないか。

 心のどこかでそんな風に思っていた。


(……いや、今も心のどこかでそう考えてしまっているところはある)


 こんな才能のある天才と過ごす価値が俺にあるのか?

 でも、俺の言葉を伝えることで、それが彼女にとって大きな価値があったなら、意味はあった。


 それを本人から言葉にして伝えられると、より身が引き締まる。

 夢を夢のままにするんじゃなくて、形にしていく為に一つ一つ行動していこう。


「……SNSの投稿文は任せてもいいの?」


「基本的にはそれでいいんじゃないか?

 もし何か伝えたいこととかあれば、言ってくれればこっち投稿するよ。

 絵のタイトルとか決まってたら、教えてほしい」


 こうして俺たちは、絵を投稿する上でのルール。

 その詳細を決めていった。

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