第19話 イラスト投稿
そして、
「ねぇ……皆好くん。
前に言ってくれたイラストを投稿するって話なんだけど……私、やってみようと思うの」
互いの過去に触れた話が終わり、未来に繋がる話が始まった。
「本当か!? なら、直ぐにでもアカウント作ったほうがいいよな?」
「え? そこまで急いでやろうとは思ってなかったんだけど……」
「善は急げだ!
きっと、描世さんのイラストを見て熱くなる人が沢山いると思うんだよ!
俺と同じで、こう……うあああああああああっ! って叫び出したくなるくらい、感動しちゃうような……自分の人生を変えられるくらいの衝撃を受ける人がさ!」
って、しまった。
俺が熱くなる一方で、描世さんは呆然と俺を見ている。
「ごめん……また熱くなってた」
「? なんで謝るの?
自分の作品を褒めてもらって、悪い気になるクリエイターはいないわよ?」
「引いてない?」
「ちょっと驚いただけ。
私の絵をみんなに見てほしいって思ってくれるのは、純粋に嬉しいもの。
応援したいって考えてくれてる気持ち、伝わってくる」
「……ほんと?」
「ええ、なんならもっと褒めてくれていいわよ?」
淡々と口にしながら、描世さんは優しく笑った。
考えてみたら、作り手に直接、想いを伝えられる機会なんて早々あることじゃない。
「なら、これからもいいと思ったものは無限に褒める!」
「ふふっ……なら、私もファン一号の期待に応える作品を生んでいかないとね」
ファン第一号。
そう言われて、少しくすぐったい気持ちになる。
でもそれ以上に、じ~んと、しみじみと、嬉しい気持ちが広がっていった。
俺が描世さんの最初のファンなんだ。
「これからもっと、描世さんのファンは増えるよ。
ネットを通して、キミの絵を見てもらえたら――それこそ世界中に!
彼女の作品が、世界中の人を熱狂させる。
きっとそんな未来に広がっていく。
「……世界中に、か。
でも、ネットを通して作品を見てもらうって、そういうことなのよね」
描世さんがタブレットを手に持つと、パネルを何度かタッチしてから、俺に手渡してきた。
「皆好くんに言われてから考えてたの。
どの絵を見てもらおうかって。
とりあえず、自分的によく描けたものを、見てもらおうかと思ってまとめておいたんだけど……」
タブレットを受け取る。
ディスプレイに表示されているのは、美麗なカラーイラスト。
それを見た瞬間、全身が血が沸騰するみたいに身体が熱くなった。
感動で全身が総毛立った。
描かれているのは、作品のメインビジュアルのようなイラスト。
その一枚で作品のストーリーや、キャラクターの関係性を想像してしまう。
「めっちゃいいよ!
これ、絶対みんなに見てもらったほうがいい!」
「そ、そう? 他のイラストはどうかしら?」
俺の感想を聞いて、描世さんはほっとしたような顔をする。
でも、直ぐにそわそわした様子で、俺に次の絵を見るように促した。
わくわくしながら、スライドして次のイラストに切り替える。
(……どれも、すごい)
全てのイラストをじっくり見ていたい。
今回、まとめられているのは全てカラーイラストだ。
イラスト投稿サイトに上げることを考えた上で、カラーのものを用意してくれたのだろうか?
塗り方の種類も様々で、そのどれもが高クオリティ。
絵柄は変わらないのに、塗りを変えるだけでまるで別の人が描いたようなイラストが完成していた。
「描世さんって、どういう塗りが一番得意なの?」
「特にこれがっていうのはないかな?
色々と試して、理想に一番近付けられるように練習中」
それを聞いて納得する。
(……そうか。
描世さんの絵はどれもすごい。
でも……まだまだ発展途上なんだ)
だからこそ、試行錯誤を繰り返しているのだろう。
努力できる天才――だからこそ、彼女はどこまでも上手くなる。
「どうかしら?
他にあげられそうな絵は、あった?」
「正直……全部上げても問題ないレベルだと思う。
どれも魅力的だった」
「ほんと?」
「うん。
あとは見てもらう為の手段を整えれば、色々な人から評価してもらえるんじゃないかな?」
「ただ、絵を投稿するだけじゃ、やっぱり弱いわよね。
上手い人はいくらでもいるもの」
今は作品が溢れている時代だ。
描世さんもクリエイターとして、それはよく理解しているのだろう。
有料どころか、無料でも楽しめるコンテンツに溢れている。
そんな中で際立っていく為には、やはり目を引く方法を考えなければならない。
「たとえばだけど……イラストをあげたら俺のSNSで宣伝するとかは、どうかな?」
俺の個人SNSには数十万人以上のフォロワーがいる。
勿論、その中の大部分はイラストに興味があるわけではないだろう。
それでも、たとえば百人にでも導線を繋げることができれば、それが千人、一万人と輪を広げて、多くの人に見てもらうことができる。
「それは……ありがたいけど。
でもまずは、自分の絵の力で届けたい。
甘いこと言ってるかもしれないけど……」
「いや、まずは描世さんの要望に沿ってやってみよう」
彼女の想いはクリエイターなら当然だろう。
誰かの力でなく、自分の力で戦ってみたい。
誇りがあるからこそ、そう思うんだ。
「ただ……実力だけで必ず成功できる世界ではないと思う。
うちの配信活動とかもそうだったけど……正直、運も相当大切だと思う。
時代の流れに乗るっていうか……」
実力や計算で成功を収めることも可能だろう。
だが、だからといって運が必要ないかと問われれば答えはノーだ。
俺の経験で言えば、同じクオリティの動画を出しても視聴回数が全く異なる時もあった。
言葉では説明できない感覚だが、間違いなく運の要素は存在する。
「だからまずは色々と試しながらやってみる。
その上でもし、見てもらうことが難しそうなら――俺にプロデュースさせてほしいんだ。
キミのことを! 本気でキミを応援してる、ファンの一人として!」
俺たちは知り合うことができた。
それも間違いなく、彼女の運の一つなのだから。
「わかった。
色々、考えてくれてありがとう。
皆好くんの気持ち、すごく嬉しい……じゃあ……もしも、どうしても必要になった時、力を貸してもらうね」
「ああ! キミの為なら、いくらだって協力する」
嘘じゃない。
だって俺は、キミの作品を一人でも多くの人に届けたいんだから。
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