第15話 突然の誘い

     ※


 あの後、香苗さんが家まで送ってくれた。

 部屋に戻ってベッドに転がる。

 ポケットからスマホを取り出した。


(……描世さんから連絡は……ない、か)


 今も、絵を描いてるのかな?

 ずっと描いていたいって言ってもんな。


(……そういえば……描世さんって、アニメーターになりたいのかな?)


 ノートに描かれていたのは全部、白黒のイラストだった。

 漫画家やイラストレーターなら、多分……デジタルで描く人のほうが多いよな?

 だとすると、やっぱりアニメーターなのだろうか?

 キャラクターの三面図や設定画は、アニメの設定集そのものだ。

 それに、描世さんの絵は全部、手で描いたとは思えないほど美しい線で描かれていた。


「うん……え!?」


 トークアプリに、描世さんから連絡が入った。

 慌てて内容を確認すると、


「……」


 俺は言葉を失った。

 届いたのは一枚のイラスト。

 それは昨日、俺と描世さんを繋いだキャラクターのカラーイラストだった。


『色はこんな感じ。どう?』


 続けてメッセージが入る。

 どう……って、そんなの――


『キミは、女神を生み出す女神かよ!』


 即入力して送信した。

 だが、この感動は、一言二言で表現できるものじゃない。

 直接会ってこの気持ちを直接伝えたい。

 本当に最高だって!

 まるでキャラクターに命が吹き込まれたみたいだって!

 一目見ただけで、胸が熱くなって、幸せをもらえたって!

 感動を表現できる全ての言葉で、感動を伝えても、全然足らない。

 語彙力身に着ける為に勉強しようかって思うレベルだ。

 そうしたら、この感動を明確な言葉にして、少しでもキミに伝えることができるんだから。


(……って、返信がこないな……)


 冷静に考えたら変なメッセージ送ってないか俺!?

 既読は付いてるのに返信がないというのは、引かれてるのだろうか?

 などと心配していると、


『明日、予定がなければ私の家に来ない?』


 は?


「――はああああああああああああああああああっ!?」


 夜の帳が降りる時間。

 考えもしなかった唐突なお誘いに、俺は空に響くような絶叫を上げてしまう。


「お兄ちゃん、うるさい! あと夕ご飯できたよ」


 ノックもせずに扉が開く。

 その隙間から顔を出したのは不肖の妹だ。


「妹よ、兄は今夕飯どころじゃないんだ」


「はぁん? ぁ……もしかして舞花お姉ちゃんと何かあった?」


「ない」


「はやっ! じゃあ……彼女、とか?」


「……違う」


っ! 明らかに怪しい間っ! お兄ちゃん、もしかして彼女できたの!?」


 好きな人――推しであることには間違いない。

 描世さんは俺にとって、理想の世界を描く最高のクリエイターなんだから。


「あ~もういいから。

 とりあえずあとで良くから、先に食べててくれ」


 話が長引きそうなので、妹を追い出して扉の鍵を閉める。


(……はぁ……これで少し落ち着ける)


 返信、どうしよう。

 これは、あれだよな?

 友人として、絵の意見がほしいとか?

 もしくは、SNSやイラスト投稿サイトに関する相談があるのかもしれない。

 この誘いに、ラブコメ的な恋愛要素はないはず。

 などと考えている間に、次のメッセージが届いた。


『忙しいなら、無理しないでね』


 その文章を目にした瞬間、迷っていた自分の愚かしさを反省した。


『暇!! ちょ~~~暇!!』


 迷う必要などない。

 本能に従えばいい。

 俺は描世さんの描くイラストをもっとみたい!

 彼女と話して、その才能に触れていたい。

 だから、仮に忙しかったとしても絶対に行く。


『よかった。

 ならさ、お昼で上井草駅で待ち合わせでいいかな?』


『大丈夫! 楽しみにしてる』


 既読が付いて、会話を終わった。

 明日、多分俺の最高が、また更新される。

 そんな確信に胸を高鳴らせながら、俺は枕に顔を押し付けて「むおおおおおおお」と、謎の叫び声をあげるのだった。

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