第6話 告白と涙と

     ※


 翌日の早朝。

 こんなに早く登校したのは、生まれて初めてかもしれない。


(……やばい、眠い)


 実はあまり眠れていない。

 イラスト投稿サイトやSNSを見ていたら、こんな時間になっていた。

 が、どれだけ探しても描世かせさんの描いたイラストは見当たらない。

 それらしい絵があれば絶対に気付くはず。

 なのに、ネットの海をどれだけ探しても見つけることはできなかった。


(……とはいえ、世界中には膨大な数のイラストがあるわけだしな)


 今まで見つけられなかった物が、簡単に目に止まるはずもない。

 だからこそ、


(……描世かせさん……いつ来るだろう?)


 教室の扉を見ながら彼女を待つ。

 だが、一向に扉が開く気配はなかった。


(……まぁ、そりゃそうだ)


 授業が始まるまで一時間以上ある。


(……誰かと会うがこんなに楽しみだなんて……いつ以来だろうな)


 ああ、やばい。

 今になって眠気がひどい。

 少しだけ……眠ろう――と、目を瞑った瞬間。

 ガラガラと、扉が開く音がした。


「「あ……」」


 重なる声。

 目が合う。

 間違いなくお互いを見ている。

 それはわかっているのに、どちも固まっていた。


(……な、何か言わないと)


 って、なんで俺はこんな緊張してるんだ!?

 平常心、平常心だ。


「お、おはよ」


「……ども」


 窺うように俺を見て、描世さん(かせい)は小さく会釈した。

 反応は少し素っ気ない。

 表情の変化もあまりない。

 クール……というわけではないと思うが、他人とコミュニケーションを取るのは苦手なのだろうか?

 それとも俺が警戒されてる?


「こんな早くに、登校してるんだな」


「ぁ……うん。

 今日はたまたまで……。

 家にいると、寝ちゃいそうだったから……」


 随分と夜更かしをしていたのか?

 もしかして、


「絵を描いてたのか?」


 って、いきなりすぎたか?

 また逃げられる!?

 そんなことが心配になって、描世さんの様子を窺う。


「そう、だけど……」


「え……」


 思いもしなかった返答に、おかしな声が漏れた。

 しかも、彼女の瞳には興味の色が浮かんでいる気がした。

 それは期待、なのだろうか?


(……イラストのこと、聞いても大丈夫だろうか?)


 いや、迷ってる場合じゃない。

 ここでいかなくちゃ、きっと後悔する。

 だから、


描世かせさん、好きだ!!!!!」


「なぁっ……!?」」


 描世さんが目を見開く。

 頬が赤く染まって、俺から目を逸らした。


 あれ?

 思ってた反応と違う。

 待って?

 俺、今なんて言った!?

 え?

 自分の発言を振り返る。


『好きだ!!!!!!』


 ちっがああああああぁぁっうっ!

 バカ、俺のバカ!!

 抜けてる!

 言わなくちゃいけない大切な言葉が抜けてる!!


「ち、違っ……」


 ああああっ、なんでこんなにコミュ障になっちゃってんの俺!?

 好きなんだよ。

 そう、大好きなんだよ、キミのイラストが!

 それを伝えればいいだけじゃないか。

 なのに――


「あの……もし今の言葉が、お付き合いしたいという意味なら……」


 ぎゃああああああああああっ!?

 いや、まってなんか思ってた方向と違う感じになってる。

 情緒が乱れすぎだって俺~~~~っ!

 落ち着け、落ち着け。


「ま、待って!

 違う、違うんだ!

 そうじゃなくて、俺が言いたかったのは――」


 ただ正直に、自分の気持ちを伝える。


「キミの描いた絵が、めっちゃよくて。

 可愛くて、綺麗で、ほんと、忘れられなくて。

 とにかく最高で……だから……」


 正直な想いを伝えるだけなのに、不思議なほど言葉が出ない。

 だけど、言いたいことはもっと単純だ。


「もっとキミの――描世かせさんの絵が見たい!

 大好きなんだ、キミのイラストが!

 目も心も、あの日に奪われた。

 運命だって感じるくらい、すごいものを見たって思えたんだ!!」


 言い切って、目をぎゅっと瞑る。

 伝えたいことは言えた。

 じゃあ、あとは――描世さんの返事を待つだけ。


「……」


 でも返事はない。

 俺、また変なことを言ってしまったんだろうか?

 不安に煽られながら、ゆっくりと目を開く。


「っ……なんで? え……どうして?」


 描世さんの目から涙が溢れていた。

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