第3話 入学初日の放課後

     ※


 そして放課後。

 参加者を募った結果、一人を除いた全生徒がカラオケに参加することになった。


「はい。

 三十九名なんですけど……パーティルームって借りられますか?」


 確認したところ。

 なんとか入れる部屋があったので、予約を済ませた。


「予約できたから、あとはそれぞれ適当にお店に向かう感じで」


 俺が言うと「予約ありがとう」や「楽しみ~」など、クラスメイトたちの弾んだ声が教室を満たした。

 既にグループのようなものが出来ていて、三々五々と教室を出ていく。


「優雅、行こ」


「ああ――と、ちょっと待って」


 舞花の言葉に頷こうとした時、スマホの着信が鳴る。

 ワーズオブスマイルのメンバーからの電話だった。


「悪い。舞花、先に行っててくれ。

 俺はあとから行くから」


「え……でも――」


「みんなのこと頼むよ。な」


「……わかった。

 でも、直ぐに来てよね。

 みんなはあなたと話したいだろうから」


 舞花の言葉に頷いてから俺は教室を出た。


     ※


 人通りを避けるように廊下を歩き、俺は電話を取る。


「悪い、出るのが遅くなった」


『うい~っす! まだ、学校だったか?』


 明るくノリのいい快活な声が響いた。

 声の主は『ワーズオブスマイル』のリーダーで中学の同級生『遊飛ゆうき 自由みゆ』だ。

 俺が配信に関わることになった切っ掛けであり、小学校の中学年時代からの親友でもある。


「今終わったところだ。

 そっちは?」


「うちも。

 んでさ、受験も終わって高校生活も始まったわけだけど……」


「……活動の再開についてか?」


「そ。いつからにする?

 相楽あいらはいつでもいいって言ってんだけど」


 相楽――幸城相楽ゆきしろあいらも、ワーズのメンバーの一人だ。

 俺たちはこの三人で配信を行っていた。

 だが、


「前も言ったが、高校からは頻繁には参加しないぞ?」


 高校受験という名目で、メンバー全員での配信は休止中となっている。

 それぞれ出来る時に何かをする。

 中学三年の二学期以降はそんな感じでやっていた。


「お前もコメントは見てるだろ?

 ファンのみんなは、三人揃っての配信を待ってるんだぜ?」


 自由の言うように、今でも全メンバー揃っての配信を、待ち望んでくれているファンもいることはわかってる。

 誰かを楽しませることや、喜んでもらうことは好きだし、俺らの動画に救われたとか、感動したとか言われるのは本当に嬉しい。


 だけど俺は……この配信者としての仕事を生涯やっていくか……と言われたら、それは正直悩んでいる。

 喜んでくれる人たちがいるからこそ、何かを作り配信するということを通して、自分が本当にやりたいことを考えるようになったのかもしれない。


「わかってるけどよ~、やっぱお前がいないと盛り上がらんって」


「そんなことないよ。

 ワーズはお前がリーダーなんだ。

 俺たちを引っ張ってきたのもお前だろ?」


「そうは言っても、実際、優雅が出てくれるほうが再生数上がるんだって。

 イケメン枠って、必要だろ?

 それにさ、ここまで一緒にやってきたんじゃん!」


「動画始める時にお前が言ってたこと、覚えてるか?

 たまに手伝うだけでいいって約束だったろ?」


 週一回が、二回、三回となり。

 学校に通いながらの毎日動画投稿をしていた時期もある。


「だってよ、誰がこんな人気出ると思ったよ?」


「……それはそう」


 最初はなんとなくやっていた。

 楽しそうだと思ったから。

 夢中になれるんじゃないかって思ったから。


「まぁ、とにかく頼むって。

 週に一本とかでもいいから、な!」


 自由(みゆ)が本気で配信活動を続けたいという思いは伝わっている。

 だからこそ、離れるのなら、早いほうがいいとも思ってしまうが……まだ俺自身も悩んでいるのは事実。


「……わかった。

 でも、この先の活動に関しては改めて相談させてくれ」


 ずるずるいくつもりはないが、もう少しだけ自分の中で考えをまとめて、みんなと話し合う時間を持ったほうがいいだろう。


「さんきゅ~優雅! 愛してるぜぇ~! また連絡するから」


「ああ」


 現状は自由(みゆ)の熱量に負ける形で保留にして、俺は電話を切ったのだった。

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