第2話 入学初日

     ※


 割とギリギリになったが、なんとか入学式には間に合った。

 開式が始まり、校長の挨拶、在校生代表挨拶など、滞りなく進む。

 そして新入生代表の挨拶となった。


「新入生代表挨拶――皆好優雅みなよしゆうが


「はい」


 呼ばれて俺は立ち上がり、壇上へと向かう。

 事前に頼まれていたことなので準備は万端。

 人に見られるのは慣れてる。

 だから気負うことなく、するべきことをすればいい。

 壇上に立ち俺は一礼した。


(……ここにいるみんなと、俺は三年間一緒に過ごすんだな)


 挨拶を読み上げながら、頭の中ではそんなことを考えていた。

 過度な期待などしてはいけないのはわかってる。

 それなりに楽しく過ごせれば、それだけで十分。

 だけど……それでも、


(……一人くらい、本気で好きなことを話せる誰かができたら……)


 自分の好きを共有できる誰かがいたら。

 そんな想いが心の中で消えることなく残っているのを感じていた。


「以上をもちまして、新入生代表挨拶とさせていただきます」


 全て滞りなく読み終えて一礼。

 館内には、ゆっくりと拍手が響いた。


 そして……入学式が終わるとクラスが発表され。

 それぞれの生徒たちが自身の教室へと向かった。


     ※


 教室に戻ると直ぐに、生徒たちの雑談で室内は賑わっていく。

 そして、その賑わいの中の一つに、俺と舞花も入っていた。


「もしかしたらと思ってたけど……今年も同じクラスね」


「腐れ縁もここまでくると奇跡だな」


 舞花とは幼稚園から中学も含めて全て同じクラス。

 そして高校も同じと記録を更新していた。


「奇跡とか大袈裟よ。

 せめて運命くらいにして」


「運命も十分に大袈裟だろ」


「ふふっ、かもね」


 最初から、冗談のつもりで言ったのだろう。

 舞花は楽しそうに微笑してみせた。

 教室にいるのに家族と話すような感覚になるのは、幼馴染特有の空気感、だろうか?

 そんな俺たちをクラスメイトたちは見守るように見つめていた。

 クラス外の生徒たちも物見遊山のつもりなのか、廊下から教室の窓に張り付くようにして、俺たちを探している。


「そんな珍しいもんかね?」


「……まあ、でしょ。

 一応、芸能人なわけだし、私たち」


「それは舞花だけだよ。

 俺は事務所に入ってるわけじゃないから」


「同じようなものって話。

 今の時代、事務所に入ってる人よりも有名な人なんていくらでもいるんだから」


 それは、確かにそうか。

 有名人目当ての物見遊山と考えれば、騒がしいのも一時的なものだろう。

 とはいえ、これだけ騒がしくなってしまっている以上、クラスメイトには一言謝っておくべきかもしれない。

 そう決めて俺は立ち上がった。


「みんな、騒がしくなっちゃってごめん。

 でも、数日で治まると思うから……悪いけど、それまで我慢してほしい」

 

 すると、大慌てで生徒たちが反応した。


「う、ううん。

 優雅くんたちが謝ることじゃないよ!」


「そ、そうそう!

 みんなが二人のこと気にするのは当然だし」


 気遣ってくれる生徒が大半。

 一部、我関せずという生徒もいたが、敵意のある生徒はいない。

 このクラスなら大きな問題なく過ごせそうだ。


(……うん?)


 我関せずという生徒の中に一人――ノートに何かを描いている生徒がいた。

 勉強でもしているのだろうか?


「……優雅?」


「あ……いや、なんでもない」


 舞花に話し掛けられて、俺は誤魔化すように微笑した。


「ねえ……優雅くんたちがよかったら、親睦会も兼ねてカラオケとか、どう?」


 今日は午前中で解散になる。

 なら、今日くらいはクラスメイトと交流する日にしてもいいかもしれない。


「俺は大丈夫だけど、舞花は?」


「なら、私も行こうかな」


 たったそれだけのことで、クラスは大歓声に包まれた。

 こんなに喜んでもらえるなら、断らなくてよかったと心から思う。


「お~……大人気だな、このクラスは……」


 担任の教師が入ってきた。

 ぱっと見て活力がないというか、ダウナー系?

 だるそうな表情で教壇に立った。


「私は担任の雨音あまね きりだ。

 早速だが、ホームルームを始める」


 雨音先生からの淡々とした説明事項のあと。

 簡単な自己紹介の時間が設けられた。

 クラスの全生徒四十名。

 十人十色の自己紹介が終わり、入学式初日は終わりを迎えるのだった。

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