二章 精霊の寵愛
模倣と例外
――
この世界で生きるために、少女に与えられた
極寒の北国シベルマで発現したこの
故に、それを授かったウル・フロストの異名は、
内容は単純。『見た現象を模倣する』だけだ。
魔物の特徴を模倣する。魔術を模倣する。武具を模倣する。
この効果を聞いて、この
さらに、この『
『
時間的、能力的制限はある。
模倣状態継続時間は、長くて二十分。
本人の魔力、技量がその
だが、この世界に生きるモノなら、この能力の凶悪さは誰もが痛感する。
アニムの『
ユディアの『剣術』。
それらを短時間ではあるが自分のものとして扱う未来の彼女の通り名は、『四騎士最強』。
だがそれは、この
この
例えば、『
知識、経験、実力、技量を持っていて初めて十全に扱うことができるようになるのだ。
つまり、常人がそれを模倣したところで宝の持ち腐れ以外の何物でもない。
言うなれば『
それを用いて地位を築いたウル・フロストはアニムに迫る魔術の天才として名を馳せた。
とある学派では、彼女をアニム以上に評価し、世界一の才人として祭り上げられていたほどに。
彼女が魔術帝陣営についていた理由は本人の口から語られることはなく、様々な憶測が囁かれた。
――模倣はできても、やはり魔術帝のそれには及ばない魔術。それを極めようとしているのではないか。
――魔術帝と共に、過去誰も辿り着いていない神髄を見ようとしているのではないか。
だがそのどれもが、彼女にとってはどうでもよかった。
ウル・フロストは、出会ったのだ。
幼いころから天才と持て囃され、
たった一つの不可能に出会ったのだ。
それは、灰色の青年の
ウル・フロストが生涯で唯一模倣することが出来なかった
技量か、魔力量か、はたまた別の要因か。
魔術への造詣が魔術帝よりも深く、技量は
だが、無限の可能性を持つが故に、扱い辛く、当人の資質次第でどうにでも転ぶ『
ウルがこの
それだけの資質が、ウルにはある。
だが、彼にあるのは才能ではなく、研究と実践、推論と結論を重ね続けた圧倒的な経験値。
才能が九割を占める魔術において愚行とも呼べる努力の成果が、ウルの『
彼の視界には、魔術帝しか映っていなかった。
魔術帝の視界にも、彼しか映っていなかった。
魔術帝は、彼を好く者をひどく嫌う傾向があった。
恐らく、無意識にだろう。
彼に友情を抱く程度でも微かに不機嫌になるし、それ以上ともなれば露骨に態度に出る。
魔術帝の有り余る魔力を受けた者は、彼女を恐れ、彼には近づかなくなる。
そうして完成したのが、魔術帝陣営。
だから、ウルは言うことが出来なかった。
「あなたの努力を知っている」と。
「あなたの可能性を信じている」と。
「あなたは無能なんかではない」と。
恐らく魔術帝からは何度も言われている言葉だろう。
きっと、彼女以外からは言われたことのない言葉だろう。
最後の瞬間まで、ウルはそれを言えずにこの世を去った。
■ ■ ■ ■
一目見た時の歓喜。
また、会えた……そう思った。
なんでかはわからない。
ただ、私はそう思ったんだ。
彼が魔物を倒した時。
必要以上の驚愕が私を襲った。
――彼が、魔物なんて倒せるわけがない。
何故だかそんな思考が頭を離れない私の目の前で、彼は流麗に魔物を退けた。
彼が何かしらの行動をする度に、意外、埒外なんて感情が溢れ出る。
初めて会うはずなのに。
知らないはずなのに。
彼が魔術や魔物に対する知識を学徒たちに教える度に、何故だか心が温かくなった。
彼を冷たい人間だと思っていたんだろうか? でも、なんで……。
「学徒たちを頼みますッ!」
そう言って森の東側に駆けて行った彼。
私はどうしても気になって、魔術を発動した。
『
対象は、アヴェル教授の
学徒全員に配られた魔宝玉を繋ぎ、アニムの持っているそれに
どうしてか、彼が行くなら彼女の下だと直感的に感じたから。
私は、その光景を一生忘れないだろう。
黒い魔物と死闘を繰り広げる彼。
記憶の中の彼とは違う。
「……なんだろ……この記憶」
明確にズレている。
成長ではなく、進化。
戦うことが出来ずに俯いていた彼の姿は、もうどこにもなかった。
でも、変わっていない。
明確な目的に向けてなりふり構わず走るとこ。
努力を厭わず、誰よりも自分の可能性を信じているとこ。
それ以外も、全部。
彼は彼のまま、どこに向かっているのか。
私は、知りたかった。
遠方から来た私は、賓客として厚遇されている王城の中で、一人の世話係にこう言った。
「家庭教師……頼みたいひとがいる。……王に、取り次いで」
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