英雄と災害

 ヴェーム大森林での異変から数日後。

 

 崩人クズレビトによる、座天使スローン才能タレントを持つ第四皇女の誘拐未遂。

 魔獣の出現とその討伐。

 そして、七人目の崩人クズレビトの誕生。


 錯綜する情報に、大聖堂は揺れていた。

 ヴェーム大森林での死傷者はゼロ。

 依頼を出した『狂骨』エンダークは、「わり、失敗した」とだけ残してアルヴァリムを去った。

 なによりの異常事態イレギュラーは、魔獣を討伐せしめたダズリルの孤児の存在だ。

 

 彼の尽力で、皇女を発端とする事態は終息したと言っていい。

 

 だがその少年の存在は、大聖堂にとって最も都合の悪い者へと変わっていた。


 魔獣を討伐した少年。皇女誘拐犯の思惑を未然に防いだ少年。

 七人目の崩人クズレビトと化した少年。


 齢十歳にして次世代の英雄の片鱗を見せる彼は、相反して大聖堂の禁忌に触れてしまったのだ。


崩人クズレビトを生かしておくわけには、いかん」


 存在こそが禁忌なのだ。

 天界ラノスガルドとその住人である天使を崇める大聖堂にとって、許してはいけない存在なのだ。


 大聖堂が崩人クズレビトを『禁忌』とする所以こそ、大聖堂が崩人クズレビトの存在を一般人に広めない理由だ。


 曰く――――使

 人間から逸脱した存在である崩人クズレビトを、天使は断罪することが出来ないのだ。


 絶対無敵の存在であるはずの天使。

 過去、その中の一柱である力天使ヴァーチューに類する天使は、人間に殺害された。

 天使を殺害した人間こそ、崩人クズレビト

 故に大聖堂はその存在を禁忌とした。


 アルヴァリムの皇女を救った英雄か。

 天界ラノスガルドと天使に仇なす災害か。


 どちらにせよ。

 少年はとっくに、常人の道を踏み外していた。




――――――――――――


一章終了。

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