経過と飛躍
アニムが聖都に行ってから二ヶ月。
ただただひたすら剣を振り、昼間はダズリル王都近くの森でひたすらガレウルフを狩り続けていた。
「ふっ! 」
息を吐き切って一閃。正面から飛び掛かってくるガレウルフの大口から尻尾の先までを一直線に両断する。
両断した勢いのまま身体を右に回し、横から食らいつこうとしてくる二匹目の顎に剣の柄の石突をぶち当てる。
「ギャゥッ!?」
二匹目が怯んだ隙に後方からの三匹目の首を袈裟斬りで落とす。
止まらず、流れるように、臆さずに。
先生に教えてもらった型を基に、自分なりのアレンジを加えた僕の剣。
剣ていう程大層な物にはなってないかもしれないけど、始めたころより確実に洗練されてきたのは間違いない。
「はぁッ!」
顎を打たれて後退していた二匹目へ狙いすました突きを放ち、三匹のガレウルフの絶命を確認した。
魔力の粒子に変わった魔物は魔玉を残して痕跡を消す。
魔玉を拾い上げ、適当に後ろ側に放り投げる。
「アルセント」
「にゃっ!」
魔玉に飛びついてキャッチし皮袋に入れたアルセントは、僕に駆け寄って深手のフードを外す。
「目標の二十個にゃ! 大量にゃ!」
「今日も少し奥に行って、ノームドールを狩る。人型だから剣の鍛錬にもなるし」
Fランクの魔物、ノームドール。
土で出来た身体に土塊の武具を纏った力自慢の魔物だが、俊敏性に欠け、型の試し斬りに持って来いの木偶の坊だ。
一カ月ほど前から狩りを初め、特に問題なく対処できるようになった。
ちなみにノームドールの魔玉を剣に転換するのも試したが、重く扱い辛い岩の塊のような剣が出来上がっただけだった。
僕のイメージではもう少しスマートに作るつもりだったのだが、生成物の形はどうやら魔玉の元の魔物の性質にかなり引っ張られてしまうらしい。
これがわかったのも大きな収穫だ。
「最初は吹っ飛ばされてたもんにゃ~」
「うるさい。……それで、情報は?」
「にゃっふっふ。ミィ諜報員に任せるのにゃ! やっと入ってきたのにゃ!」
アルセントの
盗賊に必要な隠密、解錠、諜報などを複合した斥候に振り切った
アルセントがギルドにいたのは情報が集まる場だかららしい。
僕が彼女を見つけられたのは、彼女のことを運良く認知し、ミルフィル・アルセントであることを確信していたから……だと言っていた。
消えるのではなく、外界からの関心を限りなく少なくする
そんなアルセントには、僕が手に入れられない情報を収集してもらっている。
冒険者達の雑談やら行商人の世間話やら様々。僕の『
例えば……魔物の情報とか。
「ダズリル平原に特異種の目撃情報があったらしいにゃ。にゃんでも『白いガレウルフ』にゃんだとか」
「白いガレウルフ……」
「平原から
面倒だな。目撃された瞬間に討伐隊が組まれるだろうし……狩場が無くなるのはまずい。
となれば、討伐する以外にない。
特異種は、魔物が度重なる捕食を重ねて形態や外見的変化、はたまた戦闘能力を変えた物を指す言葉。
ランクは大体二段階上昇するから、ガレウルフの特異種の場合はEランク。
Fランクの魔物を討伐できる僕なら、少しの冒険にはなるけど決して不可能じゃない。
僕は腰に携えた『灰狼のアギト』に触れ、アルセントを連れ王都に戻る。
「いったん戻ろう。
「にゃ? 今日はもういいのかにゃ?」
「今はな。夜、もう一回ここに来る。ガレウルフは夜行性だし、近くに来ているならそろそろこの森にも寄るだろう」
体感的には【剣術】
「でも、ガレウルフが夜行性だったとしても特異種にゃ? 行動は読めないはずにゃ」
「体毛を明るい色に変化させる魔物のほとんどは、夜目の利かない魔物に自分の姿を視認させておびき寄せる為であることが多い。戦闘能力が増して凶暴化するのが原因らしいな」
「にゃ…………バラム良く知ってるにゃ」
「あ、まぁ、なんとなくな」
この見識は今は多く広まってない。
冒険者に広まるのはちょうど十年ほど後だ。
僕の記憶のアドバンテージがある内に、出来るだけ甘い蜜を吸っておこう。
大聖堂に着いて、すぐさま
● ● ● ●
バラム
『
魔力を用い、あらゆるものを別の性質に変化させる。
対象は、性質に沿った形に変化する。
転換条件は、等価であること。
使用者が想像できる物質、または事象に限る。
『
二度目の生を謳歌する破綻者の証。
一度目で見たことのある
発動条件は、観察と理解。
使用者より上位の
【剣術】E 剣を扱うための技術と筋力への成長補正。
【明晰】D 対象となるものを意識的に観察、思考した際の思考能力への補正。
● ● ● ●
に、二段階上がってる……。
「どうだったにゃ?」
「上がってるけど……あり得ないだろ……」
『
二カ月で
もちろんこれからはどんどん上がり辛くなっていくだろうけど、それにしたって成長速度が異常だ。
「嬉しい誤算ではあるんだけどな」
不安もあるけど、今はこの幸運を甘受しよう。
できるだけ強く、一度目の僕なんか目じゃないくらいの努力を。
「特異種を討伐して、その足掛かりにしようか」
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