第11話 突然の来訪と疫病

 だいぶ雪が積もった頃だ。


 囲炉裏は本当に便利であった。調理としても使えるし、暖を取るのにも適していた。


 オレは朝食の準備。猪肉を塩胡椒でソテーしてから、土鍋にジャガイモと玉ねぎ、キャベツにニンジンを入れて煮込む。火が通ったらトマトをペースト状にして馴染ませる。そしてソテーした猪肉を挿入。


 これでトマト風味の野菜スープの出来上がりである。


 その傍ら、ルーシーは植物の研究といって、なにやら野菜を細かく切って反応を確かめている。


 ルーシー曰く、野菜に含まれる薬用成分を魔法で抽出して分離し、それを野菜毎に調べているらしい。


 やはり、この世界には魔法があるのだ。


 ルーシーの研究内容はこうだ。


 既成品としてある薬草や傷薬、それに類いするポーションにこれらの野菜が持つ薬用成分を配合して、効用をレベルアップ出来ないか?という事らしい。


 オレもこの世界のポーションとやらを飲んでみたが、現世でいうエナジードリンク並みである。

 飲んだからといって、傷や体力が回復することは無いらしい。


 薬草などもそうだ。


 言ってみると、漢方に近い。


 この薬草と薬草を調合して、傷薬や薬として扱い、それらを販売している者を薬師くすしと呼んでいるらしい。


 まあ、現世と比べると、この世界の医薬に関しては相当遅れているのは分かった。


 植物研究者でもあるルーシーだが、オレの嫁でもあるのだが……


 営みはもちろん未達成である。


 でも、呼び方が変わった。


 一時は、『野蛮人』『変態』『歩く性欲ニンゲン』と呼ばれることもあったが……


 なんで、そんな呼ばれ方をしたのかって理由はあえて伏せておく。


 今では『あなたーー』である。


 これぞ夫婦みたいな感じだ。


 うん。今日も平和だーー


 土鍋で炊き上げた野菜スープの頃合いだ。

 キャベツや玉ねぎはしんなりと、ジャガイモはホクホクと仕上がりは上々だ。


 犬たちには猪肉の燻製肉と、塩分控えめに作り直した野菜スープのスープ。燻製といっても桜のチップで燻製とは行かない。保存が目的のただの木クズで燻製した肉である。


 こうして、いつも通りの朝を迎えて、朝食をいざ食べようとした時だった。


 クッションがハンマーで侵入者を知らせる合図が木霊した。


「侵入者?」


「あなた?この合図って……」


 鳴り響いた音に真っ先に反応を示したのはクロ介たちであった。


 その後を追いかけるオレとルーシー。


 どっかで見た事ある光景を思い出していた。


 また飛散した服とか、露わになってる少女の姿とかやめてくれよ?


 と、思っていたが、それとは大きく異なった光景であった。


「に、人間か?たっ、頼む‼︎この獣たちを退かせてくれないか?」

「くっ……やはり噂通りの森だな」

「団長!いくら我々でもこの数を相手にするとなるとーー」

「1頭ならまだしも、こんなにいるなんて……」

 

 普通の人間だ。いや、兵士か?


 ボロボロに傷ついた甲冑に傷ついた体。

 クロ介たちが侵入者として認識し臨戦態勢をとる。兵士たちはそれに怯えながら悲鳴を溢していた。


「あなた?流石にアレは止めに入らないとヤバイんじゃない?」

「うん……」


 オレとルーシーは慌ててクロ介たちがいる下に駆け出した。


 そんなオレたちに気付いたのか、1人だけ周りと格好が違う兵士が大きく発した。


「こいつらの主人か?我々に敵対心は無い!この者らの臨戦を解いてはくれぬか?頼む‼︎」


 敵対心は無い……


 信じて良いのか?


 食糧に困って襲いに来たって事も考えられるしーー


 それにしても、なんであんなに傷だらけなんだろ?

 まだクロ介たちは攻撃してないし、クッションだってここには居ないし。誰に攻撃された?


「あなた、ダメよ。まだ臨戦を解いちゃあ!」


 迷っていたオレに最適解を導いたようにルーシーが答え、その者らの前に出ていく。


「わたしは魔人族、『ルーシー・キャルロット 』!あなたたち!敵対心が無い根拠はどこ?それを示せたなら解いて上げでも良いわよ?」


(なっ‼︎ルーシー・キャルロット?……あの大賢者が?なぜこんなところに?)

(魔人族ルーシーといえば、大賢者で有名なーー)

(こいつらの次は大賢者かよ?)


 兵士たちの囁き声は 直文 の耳に届いていない。


 そんな兵士たちの囁き声をかき消すように、1人の兵士が前に出て、腰に帯刀した剣を前に構える。


「我はこの森の隣、アリーゼル王国領地フリーデル村の第3団憲兵、団長 オーガス・フリューゲル である。我らに敵対心は無いとこの剣に誓う!先ずは臨戦状態を解いて頂きたい!」


「あなたが憲兵団長って事は分かったわ!それより、なぜこの森に侵入したのかを教えてちょうだい!解くのはその後よ」


「分かった……我がフリーデル村で疫病が発生した。アリーゼル王国に頼ったが隔離処置が取られ、フリーデル村の民は行き場を失った。瀕死に陥った村を救うために薬師を探していたところ、魔物に襲われこの森に逃げて来たところだ。我らに敵対心は無い!」


 ルーシー曰く、嘘偽りは無いとの事。


 そんな事なんで分かるの?


 あまり深く考えないでおこう。

 それから犬たちの警戒は解かれた。


 こうして、兵士たちを迎え入れる事にして、詳しい話を聞く事にした。

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