第10話 冬対策

 この世界が一面銀色になった。

 そう、本格的な冬の到来。


 ふむ。雪が積もるまでに越冬準備が終わってほっと一安心だ。


 食物の収穫はルーシーと継続して行っていた。

 その度に、精気を吸い取られたのだが。


 それと並行して、寝床の冬季対策に野菜の貯蔵庫を作製する事にしたのだ。


 貯蔵庫は自然の力を借りる事にした。

 まあ、雪が降るってのが前提ではあった。

 こうして積雪に恵まれ予想通りといったところだ。


 貯蔵庫といっても、土の上に板材を組んで野菜庫を作り、雪解け水が地面に吸収されるよう、すのこ状に組んだ板を地面に敷いた。

 それからクッションお手製のシートを上から被せたら、貯蔵庫の完成である。


 自然冷蔵庫だ。


 ここでも寝ないで考えた建築技法が役に立った。


 頭を悩ませたのは、寝床である。


 降雪を考慮するのであれば、色々と手を加えなければいけなかった。

 木の皮を貼っただけの屋根の強化に壁の断熱化。

 それと床冷え対策である。


 地面直打ち状態の寝床で、越冬は流石にハードモードだ。


 クロ介とエリザベスの子供犬も増えた事だし、犬たちには犬小屋を作って与えた。


 犬小屋といっても、馬房みたいになってしまったが。

 見た目は置いといて、経験値はたっぷりと吸収してオレの建築技法もレベルアップしたのではないだろうかと思う。


 オレとしてはクロ介たちと皆で寝る事はたいして苦では無かった。多少の手狭感はあったのだが、理由はルーシーだ。


 これまで、寝床で共にする仲間たち……オレとルーシー、それに犬たちであった。


 クロ介たちが動くたびに、ルーシーはビクっと体を震わせて、たまに気を失う。


 万能農具でセミダブルほどの大きさのベッドを作って、布団はもちろんクッションお手製だ。

 とは言え、葉っぱを詰めた布団。


 お決まりといえばお決まり展開なのだが、朝目覚めると子供犬がベッドに侵入して一緒に寝ていたなんてこともしばしば。


 その度に、ルーシーの泣き叫ぶ声。で、また気を失うのだ。


 なんでだろう?


 犬と一緒に寝るなんて、愛らしい光景じゃないか?と思うのだか。


 それにしてもやはり、ルーシーという名の第一村人が増えたから、増築もしなければ手狭過ぎる。


 7割配合サキュバス、

 ルーシー。


 うん。一応オレの嫁である。


 幸い、まだ別居宣告はされていない。

 ただ、呼び名が変わってしまう時がある。


 『野蛮人』『変態』『歩く性欲ニンゲン』の三秒揃い。


 ……


 うん。サキュバスなのになんか変だ。


 要約すると、未だ夫婦としての営みは未達成である。


 色んな意味で、ちゃんとしっかりオレの精気を受け取って欲しいのだけど……


 彼女曰く、

 心の準備がどうとか……結論、まだ早いらしい。


 疲労が溜まるとルーシーは幼女の姿に、いや、縮まるのだ。

 数日間、そのままでいる時もある。

 

 理由はこうだーー


「この姿なら襲う気無くなるでしょ?」


 成人男性には良い答えだ。と、感心してしまった。


 こうして農作業のかたわら、寝床の冬対策を考えていた。


 壁の中に葉っぱを詰めて断熱材にする?

 いや、ダメだ。湿気で色々と大変な事になって断熱効果は無くなってしまう。


 実際に断熱材として使われているのは、硬質ウレタンフォームやポリスチレン(発泡スチロール)なのだが、錬金術を使ってもクッションを頼ったとしても難しいよな?


 頭を迷わせた結果、『漆喰』に辿り着いた。


 それなりの断熱効果も見込めるし、湿気に強く、なんたって構造体としての強度も見込めるといった、ある意味この世界では最強的な断熱材と言えるかもしれない。


 漆喰の材料は天然資源で十分補える。


 そこが1番のポイントだ。


 原料は石灰石なのは知っている。

 だが、1000度で加熱しなくては消石灰にならないのだ。


 もっと言うと、消石灰に繊維とのりを混合して出来たのが漆喰。

 熱した消石灰は強アルカリ性だから、扱いには注意が必要である。別名、水酸化カルシウムCa(OH)2だ。


 うん。元素や化学式があるなら、きっとスキル『錬金術』で生成は可能だと思う。


 繊維はごぼうを代用する事にした。

 野菜の中でももっとも食物繊維が豊富だからだ。


 それをどうするか?

 泥を落として、繊維を殺さないようささがきで切る。鍋に水を張り、煮詰める。ささがきで細かくしたごぼうが液状になるまでひたすら煮詰めるのである。


 良い感じでとろみがつけば完成。


 次に、のりだ。

 そもそも、のりの原料は木の樹液だ。だから木に傷を入れて樹液を取り出す。不純物が入ると分離する恐れがあるから濾過ろかする。そこから水分を飛ばすために熱する。


 これで2つの材料の仕込みは完了だ。


 問題は消石灰である。

 1回の錬金術で生成できる量は手のひらサイズくらい。これを壁一面と屋根の分量ほど生成するわけだ。


 健康で丈夫な体設定でも、錬金術の連投は相当な体力消耗となる。


 三日三晩の長期戦になった。


 これで漆喰の準備は出来た。

 その前に増築が必要だ。


 玄関を取り壊して、部屋部の増築。

 板材や角材を継いで行くだけの作業だからそこまで時間は掛からなかった。


 そこでやっと漆喰の出番。


 ルーシーにも助っ人を頼んだ。


 いつの間に、犬たちやクッションも集まった。

 とはいえ、流石に漆喰を塗ってくれとは言えない。


 うん?


 またルーシーが気を失った。


 漆喰塗りは1日かけて終えた。


 床冷え対策には、石灰を錬金術で生成して床に撒く。その次にチップ状の木片を敷き、板材を敷き詰める。フローリング仕様である。


 屋根の強化は木の皮を剥がして、クッションお手製のシートを被せて、板材を二重に貼っていく。

 なるべく隙間がないようにするのがポイント。

 その上に剥がした木の皮を貼って、屋根の修繕は完了だ。


 こうして、本格的な冬を迎える事になる。



➖➖➖➖


【あとがき】

今後の展開。


主人公、直文の薬学者としての本領発揮。

と、新たな村人が増えます。


予定としは、異世界スーパー経営や異世界薬局やら、お決まりかもしれませんが、化粧品などの開発を予定してます。


ここからが、見どころになっていくかと思っております。


新作投稿から1週間ほど経ちましたが、以外と読者の皆さまの反応が良くてモチベーションに繋がっております。


今後とも応援宜しくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る