第9話 越冬準備

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【まえがき】

前話にて加筆がありますので、

9話を読まれる前に前話の8話を読んでいただけると、展開がスムーズに読めると思います。


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 昨夜はオレの中で黒歴史か、はたまたはおめでたい日となったのかは深く考えないようにした。


 我ながら痛い奴だ。


 いや、これも異世界流という理由で許されるのでは?


 あれから夫婦として初めての営みがあったかどうか?

 至って健全である。

 とだけ言っておく。


 昨夜は初々しくも、まるでお見合いさながらの自己紹介から始まる下りだ。


 転生やら転移を彼女に話しても信じてもらえる訳はない。

 うっかり口を滑らせて。

 なんて事は無かっただろうか?


 こうして昨夜の会話を思い返してみた。

 別に余韻に浸りたいわけではない。


 彼女の話はこうだ。


 名前は ルーシー・キャルロット 、魔法使いでもあり植物研究者でもあるとの事だ。まあ、薄々気付いてはいたが。明らかにファンタジー世界に出てくる杖を持っていたからだ。


 改めてだが、サキュバスと獣族のハーフである。家系的に割合は7:3で、サキュバスが7らしい。


 オレたち現代人の認識では、サキュバスって夢に出て来て精気を吸い取ったり、◯◯◯な事をしちゃう生き物って概念があるが、まったく違うらしい。


 それを話すと、ルーシーには鼻で笑われた。


「この森の事といい本当、世情を知らないのね?」


 世情?


 何のこと?と、きょとん顔でルーシーを見つめながら問いかけた。


「ところで、本当なんでこんなところにひとりで来たの?あんなに傷ついてさ?」


「まあ、話せば長くなるんだけどね?割と自由に植物の研究やらせて貰ってだんだけど、今になってお偉い貴族さんが研究費がどうとか言って来てさ?嘘ついて研究費ちょろまかしてたってのはあるんだけど。だから、その貴族から逃げて来たってわけ!で、ちょうどこの森の事を聞いて来てみたってとこ。ついでに植物の研究にもなるかな?って思ってだけど、本当噂通りの物騒な森ね?」


「物騒な森?」


「うん!この森なんて呼ばれてるか知らないの?あんな連中従えてるのに?案外、鈍感なのね?」


 そんな話をしながら、こうして朝を迎えた。


 さあ、今日も頑張るか。


 ルーシーの寝顔を見るや、やる気がみなぎってくるのだ。


 こんな可愛い子が、今日からオレの奥さんに?


 いや、昨日からか?


 出会ってゼロ日婚、どっかで聞いたことある響きだな?


 色々と妄想を膨らませて恥ずかしくなってしまうオレなのだが。


 もうそろそろで冬がやってくるから、野菜たちを収穫して冬を越す準備だな?

 それと、同居生活するなら今の寝床じゃあ手狭だよな?


 畑の手入れをしながらこれからの予定を考えていたところだ。


「おはよう?」


 寝癖が付いた銀の長い髪を掻き上げながら、満面の笑顔と頬を少々赤く染めたルーシーだ。


「おはよう」


 まだちっとも夫婦だなんて実感は無い。

 だけど、こうやって人と挨拶が出来るって良いな?

 

「ねえ?今日は何するの?」

「うーん?冬が来るからな?その準備に入ろうって感じかな?」

「なら手伝う!」


 ルーシーにひと通り収穫方法を教えた。

 やはり、植物研究者だけあって関心が強いのだ。


「これってどんな薬用があるの?」


「薬用?ビタミンAに鉄分、葉酸だって含まれてるし、それに食物繊維も豊富に摂取出来て……」


「ビタミンA?鉄分?それってどんな効果があるの?初めて聞いた薬用なんだけど?薬草と混ぜたら薬用効果が格段に上がるって感じかしら?新発見だわ‼︎」


 こうして2人で収穫すると早いものだ。

 淡々とこなすと、あっという間に作物の山になった。


 ルーシーを村人と認めたから、クロ介たちは威嚇をやめた。

 が、背後にいる犬たちに気付くとビクッと体を震わせるルーシーであった。


 不意打ちでクッションが近付くと、何度かルーシーは気を失った。


 なんでだろう?


 真っ黒い大型犬が近付いたら大抵の女の子は怖がるし、こんな巨大蜘が背後にいたらそりゃあ怖がるよな?


 あまり深く考えないようにした。


 越冬する分には十分過ぎるほどの野菜が集まった。だか、やはり虫食いが発生している。


 それだけ美味しい有機野菜なのだろう。


 7割サキュバス配合のルーシーにはこの量の収穫作業はハードだったらしい。

 最初に出会った頃の、少女の姿に変わっていた。


「これじゃあ体が持たないよ」

 と、嘆く始末だ。


 サキュバスだけあって、オレと同じ食事でも良いのだが、補充は定期的にする必要はあるらしい。


 補充とは精気を吸い取る事なのだが。


 今の彼女には精気が必要だ。


 だから今夜の食事はオレというわけだ。

 

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