第7話 出会いはいつも突然!?
しばらく万能農具を使ってみた。
そして新たに分かったことがある。
万能農具を使って生えてきた食物たち。それはオレが思い描いた通りの野菜たちとなって育った。
それを実証するため、分かりやすいネギとモヤシをイメージして呟きながら万能農具で土を耕してみた。
すると、その通りにネギとモヤシが生えてきたのだ。
この万能農具、種も苗も必要ないらしい。
むしろ、野菜の脳内イメージをしながら土を耕すと自然に種を植えた状態になっているのだ。
やはり万能農具で植えた野菜たちの成長は早かった。
新たな発見もあった。
堀を作った時に出た
土の置き場所に困っていた時だった。この万能農具で土を叩くと、粘土質に変わってそのまま叩き続けると固まるのだ。
それを応用して土鍋を作成した。
そこから念願だった自給自足生活の開始だ。
実った野菜たちを収穫、土鍋に錬金術で水を溜めあとは簡単、ぐつぐつと煮込んでいく。
味付けは錬金術で生成した塩化ナトリウム。塩だ。
これだけの味付けだと流石に飽きてしまうのだが、なにも無いよりかはマシだった。
人間、無いものねだりをするもので、ずっと野菜ばかりだと肉が欲しくなってくる。
まあ、肉といっても大自然の味、血生臭いから飲み込むのにも一苦労するのだが。肉は食いたいのだ。
と、そこでなんとかこの血生臭さを取れないかと、生姜やコショウを植え始めた。
これでまた食文化の幅が広がるのではないだろうか?と思う。
この異世界に来てからどれくらい経っただろう?
気付けば、餌付け?介抱?した犬たちはオレに懐いて、行動を共にするようになった。
長くひとりでいると、最初は清々しいのだがやはり寂しくはなるものだ。
そんな時に、この犬たちは心の支えとなった。
だから名前を付けた。
オス犬は クロ介 メス犬には エリザベス と名付けた。名前を呼ぶと尻尾を振って近寄ってくるから、気に入ったのだろう。
そのうちエリザベスが産気づいた。2日に渡る戦いであった。見守る事しかできないオレはなんとも心苦しい。
無事出産を終えると、また新たな仲間が6頭増えた。
犬とじゃれ合いなから農作業をするのは悪くは無かった。
そんな感じで、農作業に精を出している最中だった。
クロ介とエリザベスはたまに狩りに行く。
犬たちも自給自足を率先して行なっているわけだ。
そんな時、クロ介とエリザベスがクッション?いや、巨大蜘を連れて来た。見た目はクッションのようにふかふかな体毛に覆われて、どことなく可愛い巨大蜘であった。
そんな訳で、また新しい同居人?が増えたのだ。
ちゃんと名前も付けてやった。第一印象のクッションと命名した。
クッションは高い所が好きらしい。ひとまずの住処は大樹の枝の上だ。
なかなか器用な一面を見せた。自分で吐き出す糸を、腕で絡みとっては編んでの繰り返しで衣服を作れるという特技を発見出来た。
最近の冷え込みはきっと冬の到来を知らせるのだろうと、なんかのゲームに出てくる村人Aのような服装のまんまで越冬出来るのか?と、そんな心配をクッションが解決してくれた。
冬用のコートとまではいかないが、猪の皮の処理に困っていたところ、クッションの特技でそこそこ立派なジャケットに早替わりだ。
触り心地はまるでカシミア以上だし、糸は白く輝くシルクのようだった。
クッションには見張り役を任せた。吐き出す糸で罠を張り巡らせて、猪みたいに突撃を試みる動物に警戒するためだ。
合図も決めた。万能農具で作ったハンマーをクッションに渡して、侵入者発見の場合や方角、人数をハンマーで打つ回数で決めたのだ。
うん。我ながら良いアイデアだ。
これで越冬の準備は万全かな?
本格的な冬季に入る前に、実った野菜たちの収穫を済ませてしまいたい。
見張り役としてのクッションもいる事だし、前みたいに突進してくる猪の心配もなくなった訳で、こうしてオレは農作業に集中出来る。
そんならある日の事だ。
「カン、カン、カン」
早速大樹から鳴り響くクッションの合図。
回数からして侵入者、そして方角は北。
オレとクロ介がその合図に合わせて、ここから北へと駆け出した。
出会いは、いつも、突然である。
犬だけあって鼻がいいのだろう。
クロ介に案内されるようにそこに辿り着いた。
オレとクロ介よりも先に辿り着いていたクロ介たちの子供たち、それとクッションだ。
その光景はあまりにも悲惨……いや、目のやり場に困るあり様であった。
引き裂かれた衣服が地面に散乱している。きっと犬たちに裂かれたのだろう。それからクッションが放った白く輝く糸で体を縛られて拘束されている。
上半身の横半分が露出し、肌が顔を出している。
そんな哀れな格好をした彼女を見るのは忍びない。が、やはり異世界なのだと実感する。
背格好からして彼女ではなく、少女と言った方が妥当か?それから銀色に艶やかなロングの髪と、鼻筋が通って整った顔立ち。
何より最も特徴的で印象的な、まるで狼を連想させる獣耳だ。
その傍に転がる、古ぼけた木製の杖。それこそアニメや漫画で見たことがある、魔法使いが持つような杖だ。先端には紅い石が施されている。
「助けて‼︎助けてくださーい」
言葉が通じる?
半分泣きながらオレを見ては、自分を囲んでいる犬たちとクッションに怯えている。
そんな少女を見て、早めるオレの足音を遮るようにしてクロ介の威嚇する唸り声が木霊する。
「お願い……助けて…」
犬たちの唸り声とクッションの顎の音が響く。
今にでも襲いかかりそうな臨戦態勢である。
「待て、待て」
そんな空気に静止を呼びかけて、オレは少女の下に歩み寄って行く。
哀れな少女の姿に目のやり場に困りながら、近づいてみると、
その少女は良くいう、美少女であった。
膝を地面について、少女の目の高さに視線を合わせると、
「ねえ?吸わせて?」
「えっ?」
パチリと二重の両目を開けてまじまじとオレを眺めながら、肩にもだれかかって耳元で囁いた。
「あなたの精気、吸わせて?」
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