第6話 自給自足への道

「……まだ口の中が血生臭い」


 この異世界に飛ばされて数日経った朝早くに、昇ろうとしている陽と共に、口に残った猪肉の後味がなんとも寝起きを不機嫌にした。


 猪肉を喉に通すもあまりの血生臭さで、錬金術で水を生成して無理矢理流し込んだことを思い出していた。


 それを押し込もうと木工加工で作った木製コップに水を生成し、ごくりと一気に飲み干す。


 囲炉裏の中に燃えかすとなった薪。

 少しばかりの温かさが残る。


 このせいか、地面に直に建てたこの寝床の中にも温もりが籠っていた。これが冬季であれば今頃凍死しているに違いないと思う。

 それだけ簡易的な寝床だ。


 昨日は畑を作るため、2面分の土を耕した。


 が、あまり考えないようにはしていたが、種や苗はどうするか?


(そんな事は知っていたさ?)


 見渡す限りの森の中に植物はこれといって見当たらないし、こんな初っ端から自給自足の夢が絶たれるのか?


 そんな落胆をしたくなく考えないようにはしていたが、これが現実なんだ。


 木の実やキノコは多少の期待が持てるが、それで空腹を満たせるとは思えない。

 まあ、肉には困らないだろう?

 実際に猪はいるし、ただ難点なのが血生臭い事だ。これだけは本当にどうにかしたいもんだ。


 味付けが出来たら?


 塩や胡椒があれば格段に違う気がする。


 うん?


 早速の盲点だった。

 塩といえば、塩化ナトリウム(NaCl)なのだ。

 そう、元素記号がある。もっと言うと、錬金術で生成可能な物質だって事だ。


 これでここでの食文化が大きく飛躍するのでは?

 と、期待を込めていた時だった。


 目を疑ったが、それ以上に歓喜が湧き上がる。


「芽が出てる‼︎……これっ、ジャガイモ?……玉ねぎ、と……ニンジン?……大根もある…」


 芽だけを見ると、農家素人のオレには全てが同じに見えてしまうので、土から顔を出す根の部分を眺めたのだ。

 幸い、殆どが根菜だったから根を見ると、どんな野菜か判断がついた。


 それに、土を耕す時、オレがこんな野菜が欲しいと願ったり、食べたいと思いながら鍬を入れた場所にその通りの野菜の芽が出ているのだ。


 万能農具を使えば、種も苗も要らないのか?


 願ったり叶ったりなのだが、実験好きなオレにはもれなく検証実験がついてくる。


 と、いうことで、


 分かりやすいネギやモヤシを作ってみる事にした。


「ネギ、ネギ、ネギ……モヤシ、モヤシ、モヤシ」


 こんな風に呟きながら土を耕していく。

 きっと明日には芽を出している事だろう。


 万能農具で植えた野菜たちは成長が早いらしい。


 今朝方までは土よりほんの少し芽を出すだけだったのに対して、昼頃になるとまた伸びているのだ。


 まるで自分の子供の成長を見ている気分だ。


 農家はこんな気分を味わっているのだろうか?


 そんな嬉しい誤算を感じてる間だった。

 思いがけない侵入者に遭遇した。


 それは傷付き弱り果てている2頭の犬の姿であった。1頭はオレを前にして後ろにいるもう1頭を守るように威嚇の態度を表す。

 大きさは大型犬よりも2回り大きいくらいの体格だ。


 牙を見せながらかすれたうなり声が小さく響く。そこに近付くと、体勢を低くしてあたかも臨戦状態になるのが分かる。


 よく見ると、牙を向ける犬の後ろにいるもう1頭はメスだと気付いた。

 だが、何やらメス犬の様子がおかしい。腹を大きく膨らませて、なんなら、かすれて小さく消えてしまいそうな唸り声を上げるこのオス犬よりも重症ではないだろうか?


 その腹には子供がいるのか?


 咄嗟にその考えに至った。

 そうか。この犬たちは夫婦なのか?


 こうして、芳醇な大自然の味がする猪肉の生肉を犬に与えた。

 最初は警戒していたが、難なくペロリと完食してしまったのだ。

 途中、オス犬が遠慮してメス犬に食えと言わんばかりに生肉を持って行く様が見受けられたのには、感動を覚えた。


 馬の鼻先にニンジンを吊るすように、猪肉の生肉で釣りながら2頭の犬を寝床に引き連れた。

 満腹になり安心出来たのか、メス犬はオス犬にもだれなから2頭の犬は眠りについた。


 そこから距離を取って、オレも眠りにつく事にした。



♦︎♦︎♦︎


「そういえばこの前魂送した 相馬ソウマ 直文ナオフミ の様子はどうだろうね?」


「閻魔様、八咫鏡ヤタノカガミでご覧になりますか?」


「うん!そうしようか?」


「どうぞ、こちらです」


「うむ。へえー、ちゃんと畑作ってんじゃん?んっ?住居もあるよ?うんうん!なかなか良いんじゃない?……で、当の本人はどこにいんの?」


「そちらの住居らしき建造物内で寝ておりますね!……って、えっ?えっ?えええーー‼︎閻魔様、大変です!」


「うん?なにが?」


「彼の側にいるのは……あの…、あの世界でどんな種族もが恐れるもはや伝説級の……はわわっ…… ユニノーブル・ウルフでは?なぜ?なぜです?ついこの前魂送したばかりだというのに。閻魔様、また直ぐに死んでしまいます!ユニノーブル・ウルフがまだ寝ているから良いものの、覚醒したら……あまり想像したくは無いんですが、即座にバラバラになってしまいます」


「へえーー。バラバラになっちゃうとさ?バラバラの状態でこっちに来ちゃうのかな?お掃除大変じゃん?またサタンちゃんとか神様に怒られちゃうよね?困っちゃうね?ボーナス査定どうなんだろうね?」


「閻魔様……問題はそこですか?……まあ、ボーナスは無いと思った方が懸命ではないでしょうか?」


「だよね?じゃあ死なないように、他の力でも与えちゃおっか?何が良いかな?」


「閻魔様!それは就業規則違反となります。人界に影響を与えてしまう大きな力を、健全な人間に与えるのは禁じられております!時空の歪み、またはそれが引き金となってどんな自然災害が起こるかも予想だに出来ません!下手したら第二次世界氷河期なんて事も……」


「そんな事言ったらもう死ぬの待ってるだけじゃん?」


「言いたくありませんが…そうなります」


「また死んでも良いんだけどさ?バラバラだけはやめて欲しいんだよね?」



♦︎♦︎♦︎


➖➖➖➖


【あとがき】

さあもう少しで今後のヒロイン候補に出会う?といった展開になりそうですね?

異世界に行って、初めて出会う人ってどんな人が良いですか?性別だったり種族だったり( ^ω^ )

モフモフけも耳がやっぱり人気になるんでしょうか?


少しだけ今後の展開?をお話ししちゃいますね?


今お読みの部分は第1章な訳でございますが、

メインとしては万能農具となります。

その力をお借りして、領地を……

てな展開になる訳ですね?


1章の後半部から何にも知らない主人公が、この世界の世情ってのを段々と理解して行きます。

その中で隣国やら隣村やら、魔王国っていう存在もあるかもしれませんし、外交だってするかもしれません

まあ、王国があれば貴族ってのもありますし、

貴族があれば皆さんお好きな極悪令嬢もいるかもしれませんね?


そんな期待を込めて、フォロー登録や

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応援、宜しくお願いします(^。^)

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