第5話 大自然の味

 今日の予定を考えるかたわら、せっせっと万能農具でフライングではあるが簡易囲炉裏を寝床に作ってしまった。


 ただ寝床の床を掘って余った板材や角材で囲み、耐熱性を上げるために錬金術で生成した鉄の塊に少し手を加えて、囲んだ角材の上に被せただけの簡易囲炉裏だ。


 万能農具をハンマーに変えて、鉄の塊を叩いて伸ばして曲げたりして、ひょっこりこれで鍋も作れるんじゃないかと試したが。


 オレにはそんな技術が無かったと知った。


 やはり、自分で栽培して収穫したものを食べるってのにはロマンがあるし、これぞ自給自足って感じだ。


 だから早速、今日の予定は畑を作る。事にした。


 畑を作るには先ずは土を耕す事から始まるのだと、万能農具をくわに変えて耕していく。


 野菜といっても、ここは日持ちする野菜の方がいいと思う。

 収穫までに保存方法も考えないとダメだな?


 日持ちする野菜と言えば……


「ジャガイモ……玉ねぎ……ニンジン……まるでカレーの具材だな?大根も欲しいな?と来れば……キャベツに、トマト……」


 そうこうしている間に、2面分を耕し終えていた。

 より上手い野菜にするには、肥料も必要かな?土壌改良も必要になって来るかもしれない。


 肥料はきっと大丈夫だ。


 何故なら?


 食ったら出るモノが出る生き物がここにいるからだ。

 そう、排泄物に含まれるアンモニアは肥料として利用できる。ただ排泄物が堆肥に変わるまで時間がかかるってのが問題だ。

 そこは錬金術でどうにかなるだろう。

 

 ならば、トイレを作ろう。

 これでまた少し文化的にはなるだろう。


 角度を変えて3つの穴を掘って、そのひとつには上から中をくり抜いた丸太を被せた。便器である。

 もうひとつの穴は換気口代わりだ。残りは排泄物が堆肥となりそれを取り出すための穴だ。


 堆肥の促進を促すためには、石灰が必要となる。

 それこそ錬金術の出番である。


 さっそく完成したトイレを試してみる。


 ……に、しても……


「落ち着かない」


 誰もいないのは分かってはいるが、裸トイレは落ち着かない。


 そこでオレは寝ないで考えた建築技法を改良して、トイレを囲むよう壁と屋根を取り付けた。


「うーん…寝床よりも立派になってしまった」


 と、出来栄えに感心している時だった。

 一頭の猪がオレに向かって突進して来る。

 咄嗟に万能農具を鍬に変えて、いざ突撃を試みている猪に向かって振りかぶった。


 それはあっけない終わり方であった。


 見事に猪を退治して、万能農具をナイフに変えてさばく。


 囲炉裏の出番がこうも早く訪れるとは思わなかった。空腹のオレにはちょうどいい獲物に変わった。


 とは言え、ぱっと見は猪の姿ではあったが少々変わった格好であった。


 猪って角生えてたっけ?


 頃合いを知らせる油が弾ける音。

 串に刺された猪肉から肉汁が垂れ落ち、その度に火は大きくなる。


 火は万能農具を虫眼鏡に変えて、太陽の光をレンズに集めて反射光を木クズに。すると簡単に火を起こせたのだ。


 見た目だけは何とも美味そうではあるが、獣臭が鼻を刺激した。


 こんがりと焼けた猪肉を口に持っていく。


「うっ……大自然の味…もっと言うと、血生臭い」


 大自然の味を目一杯堪能したオレは、畑を守るため大樹と寝床にトイレ、畑を囲むように柵で囲い、それと堀を作る事にした。


 木を伐採して丸太にする。

 丸太を重ねて囲んでいく。


 堀といってもオレの身長分くらいの穴を掘り進めて行くだけの簡単な堀だ。


 うん。


 これで村人1人の集落の完成だ。

 

 そうこうしている間に、日は沈み日没が訪れた。


 夕食も大自然の味を目一杯堪能する事にした。

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