第80話 再会

「だ、ダメよ! ケント君! 大きすぎるわ! 無理よ! 入らないわ!」


「エレーナさん! 試してみないと分からないじゃないですか?」


「無理だって! 破けちゃうわ! 無理! 無理だって!」


「とりあえず入れてみますね!」


ビリビリッ!


「ああ! ほら、破けちゃったじゃないの! どうしてくれるのよ!」


「もちろん買取しますよ。でも、やっぱり入らなかったかぁ」


俺は右手にある破けたシャツに視線を送りながらそう呟いた。


「そりゃ無理よ。この店で一番大きなサイズの服を用意してもらったとはいえ、ピカソ? だっけ? 大きすぎるわよ。伸びやすい素材で出来てても無理よ」


破けた切れ端の一部が、しゃがみ込んだピカソの頭に引っかかっている。それを取りながらエレーナさんは俺にそう言った。


「んー、じゃあやっぱりオーダーメイドで作ってもらうしかないですかね」


「最初から言ってるじゃない! ほら、私とアリアちゃんで採寸するから、出ていきなさい」


と、俺は個室から退室を促された。カメから人に変化する所を見られるのは、正直まずいのでエレーナさん行きつけの服屋さんで、個室を借りて試着をしていたのだった。ピカソがデカすぎるので、手伝ってもらうエレーナさんと、もう一人くらいしか入ることは出来ない。だから採寸となると俺はアリアと交代しなきゃならない。


「はーい、わかりました。アリア、じゃあお願いね」


そうして、俺は外に出て、待機していたアリアと交代をする。


「わかりました。ケント様は戻って待っていて下さい。」


「うん、お願いね」


俺はエレーナさんとアリアに任せて、宿に戻ることにした。

宿に戻ると表通りに出ているカフェのような席に、クリムゾンとアジュールが仲良く? 座っている。俺はそこに合流し、座って二人と一匹? 三人? まあ、戻ってくるのを待つことにした。程なくすると、通りの向こう側からゆっくりとこちらに向かってくる人が見えた。後ろにカメの姿をしたピカソが這っているからより目立つ。ピカソはさすがにカメの姿なので歩みは鈍いが、足の悪いエレーナさんにとっては丁度よさそうにも見えた。


「あ、エレーナさん! アリア! こっちだよ」


俺は手を振りそう叫ぶと、エレーナさんとアリアも手を振り返して答えてくれる。ピカソも前足? をパタパタと振っている。

二人が席に着くと、俺は早速エレーナさんにお礼を述べる。


「エレーナさん、ありがとうございます」


「いえいえ、ケント君のお願いとあれば、ね」


「でも、助かります。常にピカソを背負って歩く訳にはいかないし、かと言ってピカソのままだとちょっと遅すぎるんで」


俺が冒険者ギルドにピカソを背負って訪れた時の皆の驚きようと言ったら、恥ずかしすぎて思い出したくもない。出来れば人の姿になってもらいたいが、葉っぱ三枚はそっちも恥ずかしすぎる。まずは服を用意しないと、とエレーナさんを頼ったんだ。


「足の悪い私にはちょうどいい速度だったけどね。でも、クリムゾンの時見てたから受け入れられたけど、このカメがあんな大きな女性になるなんて、ビックリしたわ」


「ええ、俺も最初はビックリしました」


まあ、俺は別の意味でビックリしたのだが。


「それにしても、この子はアジュールだったけ? 水の精霊の王なんでしょ? それにピカソっていう地の精霊の王。いきなり二人も契約してくるなんて、クリムゾンの言ってたことは本当だったのね」


「まあ、確かにそうですね」


アジュールとピカソ、一気に二人? の精霊を契約して帰ってきたので、エレーナさんの感想も当然のことなのかもしれない。それにしても、この小さな美少女が水の精霊の王だって言われて、何も疑いも無く信じてくれたりするのは、信頼してくれてるのがわかるし、少し嬉しいと思う。


「あとは風の精霊の王だけね。せっかくだし、全員集める?」


「ええ、ただピカソの服も出来るまで時間かかりそうですから、しばらくどこかに行く予定はないですよ」


「そっか、じゃあまた依頼をこなして貰って、みたいな感じになるわね」


「そうですね、もしくは依頼以外にも何かあるかもしれないですけど、忙しなく次はどこか行く! って予定も無いですよ。さ、今日は久々ですし、手伝って貰ったんで、ご馳走しますよ」


「えーいいの? じゃあお言葉に甘えちゃおうかな? マスター! メニュー持ってきて!」


俺の言葉にエレーナさんはそう返したあと、マスターを呼んだのであった。

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