第78話 地の王
「じゃあ、地の精霊とのご対面ってとこかな?」
俺がそう言って社に立って念じると、まるで砂漠に暴風が吹き荒れるかの如く、砂塵が舞い上がった。
「あ! そうだ!」
俺は急いで目を閉じた。急に目の前にどんな姿の人物が現れても良いように。
最悪、女性の姿で現れても、後ろを向いて話してもらおう。そうじゃなかったら問題ない。幸いここは外だから、神殿が壊れる心配もしなくていい。
「アリア! 俺が目を開いて大丈夫そうなら教えてくれ!」
「あ! わかりました!」
さすがアリア。一発で俺の言葉を察してくれて、心地よい返事をしてくれた。
が、しかし、しばらく時が経過した後、アリアが発した言葉は、俺の予想に少し反した言葉だった。
「え? え? ケ、ケント様、一応、多分だ、大丈夫ですけど……」
「ん? だ、大丈夫なら」
何故か凄く不安そうな声だった。俺はその声を合図に少しづつ目を開いていく。
すると、目の前には大きさ1mくらいの亀が、デーンと横たわっていた。
「カ、カメ!?」
これは予想外だった。王の威厳なんか全くない、ただのウミガメである。どうやら俺は地の精霊に関しては、王と契約出来なかったっぽい。
などと考えていると、その考えはクリムゾンとアジュールの言葉で遮られてしまった。
「久しぶりだZe! パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ!」
「久しいゾイ! 地の王よ!」
「カーーーーーーメーーーーーー!」
「ちょちょちょちょ! ちょっと待てっ!」
「なんだYo!」
「なんかあったのかゾイ?」
「ごめん、ちょっと頭の整理が追いつかなくて、少し待ってもらってもいい?」
「一万年以上待ってるからNa!」
「数年くらいなら全然待てるゾイ!」
「カーーーーーーメーーーーーー!」
「んな数年単位の話じゃないから!」
と俺は一旦クリムゾンとアジュールを制し、目の前のカメに、しゃがみこみながら尋ねる。
「えっと、まずはお前が地の王で間違いないんだよな?」
「カーーーーーーメーーーーーー!」
ダメだ会話が成り立たない。以前、俺は会話に関しては翻訳みたいなのが自動でできるのかも? みたいに思ったことはあるが、どうやら全生物って訳にはいかないみたいだ。動物みたいなのは無理なのかも。ってそもそも精霊は動物なのか?
「ダメだ、埒が明かない。二人に聞いた方が早そうだ。ちょっと黙っててくれ」
「カーーーーーーメーーーーーー!」
そして俺は顔を上げ、アジュールに対して、カメを指さしながら尋ねた。
「えっと、本当にこいつが地の精霊の王で間違いないんだな?」
「合ってるゾイ」
「こいつが、パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソで間違いないZe!」
「待って、クリムゾン。なんで言えるの?」
「なんで? って人の名前くらい普通覚えてて当然だZe! まあ、人じゃなくて精霊だけどNa! 忘れるなんて失礼なことするワケないZe!」
う、うぐ! ぐうのも出ない。なんでこいつは所々痛いところで正論をついてくるのだろうか。
「俺も、お、覚えられないなんて失礼なこと言わないけど、ちょっと毎回呼んでると時間かかるから、お前のことピカソって呼ぶよ」
「カーーーーーーメーーーーーー!」
腕をバタバタしてる。大丈夫なんだろうか?
「大丈夫だゾイ」
「アジュール! 言葉がわかるのか? さすが水の王!」
と俺がアジュールを褒めると、横からクリムゾンが割り込んできてしまった。
「わかる訳ないZe! カメの鳴き声なんか理解出来たらおかしいZe!」
ですよねー。ってカメって鳴くのか?しかもカメって鳴くのか? い、いや、ファンタジー世界でそんなこと考えたら負けだ!
「じゃ、じゃあなんでアジュールは大丈夫だって言ったの?」
「前のあるじ殿もそう呼んでたからだゾイ」
「な、なるほど」
「でも、ケント様、なんでその名前の中からピカソって部分を取り上げたんですか?」
とアリアの疑問に俺はこう答えた。
「俺の元いた世界に超有名な画家がいて、確かその人もこんな長ったらしい名前だったんだけど、その人はピカソって呼ばれてたんだ」
「へぇ、なるほど」
そうアリアが納得したような呟きを発した直後、口を開いたのはアジュールだった。
「その話、前のあるじ殿も同じこと言ってたゾイ」
「ホントなの!」
「本当だZe! オレも聞いてたZe!」
とクリムゾンが頷いている。
「へぇ、じゃあもしかしたら前の人も地球から召喚された人だったのかもね」
まあ、他の世界にも同じ名前で、同じ職業の人もいるかもしれないけど、地球から召喚された人だって考えるのが、俺は自然だと思う。
「しかし、これじゃあ意思疎通が……あ、そうだ! 俺が目を瞑ってる間に人間の姿になってよ!」
するとピカソは首を縦にブンブンと振っている。
「よし! じゃあアリア! お願いね!」
「わかりました」
アリアの返事を聞いた俺はすぐに目を瞑った。
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