第76話 豊穣の地
「ふう、ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
「喰ったZe!」
「これくらいにしといてやるゾイ」
「いやあ、おねえちゃんもお嬢ちゃんも、見た目に似合わずよく食べるねぇ」
「まだいくらでも食べられるゾイ」
「ただ、オレたちの主食はコレじゃないからNa! 腹が減ったらそっちを食うから大丈夫だZe!」
宿の女将さんが、クリムゾンとアジュールの前に山積みになっているお皿を眺めながら嬉しそうにそう呟いた。やっぱりたくさん食べてもらうのは嬉しいみたいだ。
見た目はスレンダーな美女のクリムゾン、小さな美少女のアジュール。確かに見たところはあまり食べなさそうではあるが、中身は巨大な竜であり、龍である。たくさん食べることなんて造作もない。まあ、今の見た目と考えると質量保存の法則とかガン無視しているけれども、ここはファンタジーの世界だ。考えるだけ無駄なこと。
それに、こいつらの主食は俺の魔力。なんなら今は具現化してる最中、絶賛爆食なうのはず。まあ、俺には食われ続けている実感は皆無だが。
「あはは、本当によく食べるんですよ」
俺は苦笑いを浮かべながら、そう言葉を返した。いろんな意味でこいつらには遠慮と言うものがない。
「食費もかかって大変だろ? アンタも」
「まあ、その辺はなんとか間に合ってます」
まだ換金していない魔石も大量にある。資金の心配は特にしなくて大丈夫である。
「でも、ここのお料理、美味しいですね」
と、アリアが女将さんに笑顔でそう話しかけると、女将さんは肘をつき、少しカウンターから身を乗り出してきた。
「だろ? まあこの辺は昔っから良い作物が育ちやすいからねぇ。なんでか知らんけど。まあ、だからこの辺に集落も出来たって死んだじっちゃんが言ってたなぁ」
街道を行きかう旅人の為に、適した地だったから、この辺が集落になったというのには道理があると女将さんの言葉に俺は思った。
「ふむ、もしかしたら地の精霊の加護があるのかもしれないゾイ」
するとアジュールは女将さんの言葉を聞いてそう返してきた。
「そうなの?」
「地の精霊は栄養をもたらしたりもするからのう。可能性は全然あるゾイ」
「オレもそう思うZe! 魔法陣もあるかもしれないZe!」
「へぇそれはいいね」
魔法陣があれば今度は地の精霊と契約できるかもしれない。
「いやあ、神官もいないし、神殿はここらで見ないねぇ」
女将さんが腕を組み、首を傾げながらそう呟く。
「神殿はあくまで人が管理してるモノがそう呼ばれているだけじゃゾイ。魔法陣さえあれば別に神官がいなくても契約出来るゾイ」
「そうなの? じゃあ探してみる価値はあるかもね」
俺がそう呟くと、女将さんが今度は逆の方向に首を傾げ、斜め上に視線を送って何か考えながらの様子を見せながら、こう話し出した。
「なるほどね。なら、そうかもしれない場所はあるねぇ。ここから東に畑が広がっているんだよ。その中心にだーれも立ち寄らない建物があるんだよ。そこがそうかもしれないねぇ」
「なるほど、ちょっと行ってみます」
「あ、なら少し気を付けなよ? どうやらここ数日、人が住み始めたみたいだから」
「あ、一応俺たち冒険者なので、大丈夫ですよ」
と、俺が言葉を返すと、その言葉に女将さんが言葉をつづけてきた。
「ああ、ならそこの調査の依頼が出ていた気がするねぇ。ほら、今冒険者たちが少ないだろ? 多分まだ解決してないんじゃないかなぁ」
「なるほど、ではついでに明日、見てみます」
と、宿屋の女将さんと話して俺たちは部屋へと戻っていった。
そして次の日の早朝、俺たちは隣にある冒険者ギルドへと向かった。
「あ、これですね」
そういいながら掲示板を眺めていたアリアが、一枚の依頼書を手に取った。
「へえ、なんて書いてあるの?」
「村はずれの社の調査って書いてあります。うん! ケント様でも請けられる依頼です!」
昨日のこともあったので、アリアは俺でも請けられる依頼かをしっかりと確認してくれた。
「じゃあ請けようか。はい、俺のギルドプレート。アリア、お願いね」
「はい、わかりました。」
と、アリアは俺のギルドプレートと依頼書を持ち受付へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます