第75話 街道沿いの集落
「ほら、家が見えてきただろ? あそこらへんがファナールだよ」
御者台で馬を操っているツフさんがそう言いながら、顎でクイっと前方を指し示した。脇から覗くと確かに前方に家が建っているようだった。
「集落って感じなんでしたっけ?」
「ええ、村とは言ってますけど、街道沿いにまばらに建物が建っている、という感じですね。旅する人たち向けの店だったり宿だったりがあるんです」
俺の言葉にルルベアさんが答えてくれた。日本でいうと、国道沿いに大きな店舗が立ち並んでいるみたいな感じなのだろう。
「とりあえず、色々調べたいから、冒険者ギルドに馬車を回すよ? ここの冒険者ギルドは酒場もついてるしね」
「ええ、もちろんお願いします」
と、俺は言葉を返した。ツフさんは返事と共に、手綱をで一度、ピシッと馬を叩く。大体10分ほど後、とある建物で止まった。どうやら冒険者ギルドについたようだった。
「えーっと。ってああ、多分これだね」
入るとすぐにツフさんは掲示板の前で腕を組んで眺めだした。そしてすぐにそう言葉を発して俺たちに向かい、掲示板のとある依頼書を指し示した
「ほら、あそこ。傭兵募集の依頼書が貼ってあるよ」
勿論俺には読めるはずがない。ただ、アリアが頷いている様子から、そういった旨のことが書かれていることを察することはできる。
「へぇ姉ちゃん、傭兵に応募するのかい?」
すると、背後からそう声をかけられた。振り向くと一人の男が立っていた。
「いや、別にそういう訳じゃないよ。この子がソラーレに行きたいんだけど、サファイアパレスからの乗合馬車が無くてさ、仕方なくエバンス商会で馬車を借りてここまで来たんだ。これが原因かなって思ってね」
と、ツフさんがルルベアさんを示しながらそうその男に返した。
「ああ、そうだな。この辺の馬車は傭兵をソラーレに連れてくのに使っちまったみたいだから、それでだろうな」
「なるほどねぇ」
「まあでも、辞めといた方がいいって。傭兵になるのは」
「なんでだい?」
「いやな、とんでもないヤツが相手だったらしいよ。ハイビートから逃げてきた奴が言うにはな」
「ハイビートはチェアデスとソラーレの間にある街です」
俺が地理に疎いことを知っているルルベアさんが、俺の耳元でそう補足してくれた
「とんでもないヤツって?」
「ああ、単純に腕力が半端なかったらしい。しかも敵は3人ときたもんだ」
「それって」
その言葉を聞いたツフさんとルルベアさんは顔を見合わせて黙ってしまった。
「もしかしたらソラーレも、もう陥落してるかもなぁ」
と、つぶやく男の言葉に対して、ツフさんは言葉を返す。
「とはいっても行かない訳にはいかないからね」
そう言ってツフさんは、今度は俺たちに向き直ってこう告げた。
「さて、アタシはこれに応募するから、ここでお別れだね」
「俺たちも……」
「無理です。ケント様じゃ」
俺が言葉を紡ごうとすると、意外にもアリアがそれを遮ってきた。
「なんで?」
「B級以上って条件が書いてあります」
アリアの言葉を聞いたツフさんは、肩を竦めながら話し出す。
「そういうこと。アタシは条件を満たしてるし、ルルベアは事情も事情だ。ソラーレに行く乗合馬車に乗れるだろう。でも、ケントたちは無理だよ。言い方は悪いが、ソラーレまで行く手段があるなら、ケントたちの馬車に乗せてもらう必要はないからね」
確かにツフさんから見たら俺たちは足手まといだ。ギルドプレートのステータスしか確かめる手段はないこの状況では。
それに、依頼にも応募条件があるのだと、まず依頼を請けることは出来ないだろう。エレーナさんみたいに、俺のことを知っているなら話は違うかもしれないが、ここではそんな可能性はない。
「そう、ですね。じゃあ俺たちとはここでお別れですね」
「ああ、ありがとな」
「ありがとうございます」
ツフさんとルルベアさんは俺たちにお礼を言ってくれた。俺もきちんとお礼を言わなくては。
「こちらこそ、とんでもないです」
と、お礼を告げると、ツフさんたちは依頼を請けるため受付の方に向かっていった。
「となりが宿らしいので、そこで泊まることにしましょう」
それを見ながらアリアが俺にそう言ってきた。俺には文字が読めないからわからなかったけど、どうやら隣が宿だとのこと。アリアの提案を断る理由は俺にはない。
「ああ、それがいいね。今日はもう遅いし」
俺はそう言って同意を示し、冒険者ギルドを後にするのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます