第74話 偽りのもたらすモノ

「あれ? ツフさん、ルルベアさん? どうしたんですか?」


 馬車を借りようと俺たちはエバンス商会に入ると、身長2mは超えるであろう女戦士が目に入った。とても目立つ巨体だ。気が付かない方がおかしいくらいに。その巨体が昨晩会ったツフさんなのはすぐに分かった。横にはルルベアさんもいる。だから俺は声をかけたのだった。


「ん? ケントたちじゃないか?」


「ケントさんこそどうして?」


 と、二人の言葉に俺はこう言葉を返した。


「いや、俺たちはベネザの街に戻るための馬車を借りようと」


「アタシたちも馬車を借りに来たんだよ」


 目的は一緒だった。ただ、一つ俺には疑問に思う点がある。


「でも、昨日の話だと乗合馬車でって言ってた気が」


 そう、昨日の会話だと、乗合馬車で向かうと話していたからだった。


「二人旅ですからね、そっちの方が安いですし」


 ルルベアさんがそう話すと、ツフさんが言葉をつづけた。


「そのつもりだったんだけど、ファナール……って言ってもわからないか。パイソンの端っこの村なんだ。ここから一番近いパイソンの村がそこなんだけど、そこに向かう乗合馬車が今、出てないんだってさ。先日行ったっきり、帰ってこないらしいよ」


「で、仕方なくエバンス商会に来た、と言う訳です」


「なるほど」


 乗合馬車が出てないなら自分で馬車を借りるしかない。ならここにいるのも当然だとは思う。


「金額は高くなっちゃうけど、乗り捨てできるからねぇ」


「いつになったら乗合馬車が帰ってくるかもわかりませんが、帰ってくるまで待っている訳にはいかないもので」


「一応、ルルベアはのんびり旅ができる身じゃないからね」


 ツフさんがルルベアさんをチラリと見てからそう話す。確かに昨日の話だと、俺と違ってなるべく早くソラーレに辿り着きたい気持ちもわかる。家族の死を受け入れている様子はあったけど、実際にその場を見ていた訳ではないし、もしかしたら、逃げ延びてソラーレに辿り着いてるかもしれないし。って思っててもおかしくない。


「確かにそうですね」


 と、俺は言葉を返してからチラリとアリアをみた。アリアは俺の意図を察してくれたのか、一つコクリと頷き返してくれた。


「そうしたら逆に僕たちは急ぎの旅じゃないので、よかったら一緒に行きませんか? もちろん、馬車代はこちらで持ちますので」


「え、いいのかい? ベネザの街に戻るって、今言ってたじゃないか?」


「そうなんですけど、別に帰る家がある訳じゃないですし。知り合いがいる、ってだけです。一応、ギルドはそこに所属してますけど」


 と、俺は自分のギルドプレートを差し出した。二人はそれを見てから、顔を上げて俺にツフさんが尋ねてきた。


「これがケントのギルドプレートかい?」


「はい、そうですけど」


 すると今度はツフさんとルルベアさんは顔を見合わせて何か相談を始めた。


「どうする?」


「僕は別に構いませんが……」


 二人は顔を見合わせたまま黙り込んでいる。少し考えた様子を見せた後、ツフさんが口を開いた。


「ありがたい話だけど、アタシはルルベアを守るので手一杯になるかもしれないよ。ケントたちまでは無理かも」


「どういうことです?」


「これから戦争真っただ中の所に行くかもしれないんだ。そのステータスじゃ死ぬかもよって言ってるんだよ」


「あ!」


 その時、俺は気付いた。エレーナさんに言われたステータスのままだったことを。だったら確かにツフさんの言ってることもわかるし、ルルベアさんの反応も分かる。エレーナさんは、ギルドプレートを見てパーティーを組むか決めることもあるって言ってた。特に他の人とパーティーを組むつもりは無かったから、そんなに気にしてなかったけど、こういう弊害は今後もあるかもしれない。


「こ、これは! そう! 更新してないだけで、本当はもっとケント様はもっともっとお強いんです!」


 アリアもそのことに気づいたようで、必死にフォローをしてくれる。


「心配してくれるのはありがたいですけど、自分の身は自分で守るので大丈夫です。ツフさんたちに頼るようなことはしません。それにアリアは戦えませんが、他二人は強力な火の魔法と水の魔法を使えますから。な?」


「そうだZe!」


「心配する必要はないゾイ」


 クリムゾンもアジュールもとても偉そうに返事をしてくれた。その様子を見たツフさんが、渋々といった様子で口を開いた。


「まあ、それならいいけど」


「じゃあ決まりですね。アリア、ツフさんたちと一緒に手続きお願いしてもいい?」


 そこで俺はアリアに馬車を借りる手続きを任せることにした。土地勘は無いので、ツフさんたちと一緒に相談しながら借りた方が良いだろう、と思っての指示だ。


「わかりました。少々お待ちください」


 アリアはそう告げて、ツフさんたちの元へと向かった。俺たちは手続きが終わるまで待とうと、すぐ近くのソファに腰かけたのだった。

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