第73話 妖具

「じゃあな、ご馳走さん! また会えたら、今度はアタシたちが奢るよ!」


「ありがとうございました。また機会がありましたら!」


 ツフさんとルルベアさんが席を軽く立ち、そう言いながら俺に手を伸ばしてきた。


「こちらこそ」


 俺はそう言葉を返すと同時に、二人の手を交互に握る。アリアたちにも軽く挨拶をした後、二人は席を後にしていった。


「さて、と」


 俺は二人を見送ったあと、お茶を一口飲んでそう呟いた。


「これからどうしますか?」


 と、アリアもお茶を一口飲んだあと、俺にそう尋ねる。


「もういい時間だし、そろそろレオナルドさんの屋敷に帰って寝ようかな、と」


「あ、そうではなくて。ソラーレに向かうのかな?と。プラトンとの戦争、気になっていたとのことでしたので」


「ああ、そのことか。別に知り合いもいなかったみたいだし、そんなに急な話でもない、ってことだったから、一旦ベネザに戻ろうかなって思ってるんだよ。用は済んだし明日にでもね」


 ボーガンたちを送り届け、アジュールとも契約できた。当初の目的は終わったから、あまりレオナルドさんに厄介になるのも気が引けるし、一旦ベネザの街に戻ろうと思ってのことだった。


「なるほど。わかりました」


「もうちょっとサファイアパレスに居たかった?」


「いえ、私はケント様と一緒なら何処でも。あ!」


 と、アリアが頬を赤らめ、顔に手を当てる。そんな姿も可愛い。


「オレもだZe!」


「ロリBBAもじゃゾイ!」


「いやいや、そこで張り合っても。ねぇ」


 俺はクリムゾンとアジュールがアリアに張り合っている様子を見て苦笑する。


「では、明日また馬車を借りてベネザまで帰られますか?」


「そうだね、飛んでけば早いのだけれども、早すぎてもおかしな話になるし」


 まあエレーナさんはクリムゾンが竜なことを知っているから、早すぎても特に違和感はないだろうけど、他の人は知らないし、そんなに急ぐ旅でもない。


「ってそういえば、転移の魔導具って言ってたね。ツフさん。そういうのがあれば旅も楽になるかな? って思うんだけど。誰が作れるの? 移動っぽいしウィリディス? だっけか? 風の王が作れるの?」


 俺の疑問に答えてくれたのはクリムゾンだった。


「ウィリディスには作れないZe!」


「じゃあ地の王?」


「というか、あれ、そもそも恐らく魔導具ではないゾイ」


 と、今度はアジュールの言葉。


「どういうこと?」


「あれは妖具・・じゃな。超常現象的な事象を起こせる部分では、魔導具と妖具は同じようなものじゃ。実際、あやつも魔導具と呼んでいた通り、今の人間たちは区別がついておらんのじゃゾイ」


 腕を組んで、うんうんと頷きながら、アジュールは俺にそう説明をしてくれた。


「じゃあ、魔導具と妖具の違いって?」


「魔導具はオレたちで作れるZe! 妖具はもう作れないZe!」


「作れないって?」


「オレたちが倒しちゃったからNa! 作れるヤツWo!」


「ああ、そういうことか」


 シンシア様が言ってたな。魔物を統べる存在をかつて救世主が倒した、と。それに前のマスターってクリムゾンが言ってたし、その時に倒した相手がそれ・・なんだろう。


「魔導具にしろ、妖具にしろ、使えれば一緒。別にその呼び名で区別する必要もない。だから一万年以上の時の中で、その呼び名が一緒になってったってことか」


「多分そういうことだZe!」


「今ある珍しい魔導具・・・・・・残された妖具・・・・・・かもしれないってことですね」


「ああ、そうだZe!」


「残された妖具か、どんなのがあるんだろ」


「知らないZe!」


 俺の呟いた言葉に対して、クリムゾンが能天気な声でそう答えた。


「ああ、大丈夫だ。聞いてないよ。別にクリムゾンが知ってると思ってないからな」


「まあ、時間を遅らせる妖具じゃとか、人を排除する結界を生み出す妖具じゃとか色々あったゾイ。ただ、今もあるかは知らないゾイ」


「ま、そりゃそっか。ありがと。さて、混んできたみたいだし、俺たちもそろそろ帰ろっか」


 辺りを見回すとかなり店の中は混雑していて、席を探している人もチラホラ見かけるようになっていた。俺たちは既に食べ終わっていたので、席を立ち店を後にしたのだった。

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