第55話 アリアたちの到着
「あ、ここでちょっと待ってて下さい」
アリアの声だ。ガイルさんたちを連れてきたようだ。アリアとクリムゾンとガイルさんだけじゃない。他に誰かいるような感じがした。エレーナさんかな? 森の中なので小屋の中まで日は入ってこないが、外の様子は明るくなってきて間もなくだった。
事情が事情だしアリアも大変だったが、ガイルさんたちもこんなに朝早くから申し訳ないと思う。でも、クリムゾン? あいつに至ってはそんな気持ちが微塵も生まれないのは何故だろう?
コンコンッ!
「ケント様? いらっしゃいますか?」
扉がノックされて、外からアリアが俺を呼びかける声が聞こえる。
「ああ、アリア。入ってきていいよ」
俺の返事と同時に扉が、ガチャリと開かれてアリアが入ってきた。扉を閉めると早速アリアは一つの袋を俺に手渡してきた。
「まずは服を、と思いまして。皆には外で待ってて貰ってます。さすがに、その……葉っぱ一枚では。あ! 私は全然気にしないんですけど!」
アリアは頬を紅らめながら、よくわからないフォローをしてきた。あえて俺はスルーして、袋の中を覗き込む。
「エレーナさんの弟さんの服です。まだ朝も早くてまだ店も開いてなくて、相談したら貸してくれました。一応不格好ですが右手の分だけガントレットもお持ちしました」
「え? エレーナさんの弟さんの? あの亡くなってしまったっていう?」
「ええ、後で返してくれてばいいからって。こんな時だし気にせず使ってくれって。快くです」
なんだか少し悪い気がするが、エレーナさんがそこまで言ってくれるなら断る理由がない。店が開いてないというのもこの時間だし当然だ。日本でも夜遅くまでやってる服屋なんてない。コンビニなら下着程度なら売ってるかもしれないけど、さすがに服を一式揃えることなんて出来やしない。
「まあ、店が開くまで待ってて貰っても良かったけど。ってサラさんのことを考えたら、早い方がいいか」
俺たちは時間に関して急いている訳では無いし、ロデオも俺が見張っている限り無害だが、アレックスを待っているサラさんは別だ。少しでも早くアレックスの無事を知りたいだろう。本人はまだ寝ているが、この様子だともう少しで起きそうだ。
「あ、そのサラさんですが一緒に来てます! 安心させようと思って先に事情をお話ししたら、居ても立ってもいられないと。ガイルさんもエレーナさんもいるから、依頼の達成確認にもちょうどいい、となって」
「え? じゃあ待たせてるの?」
「ええ! では私も外で待ってますので、着替えたら教えて下さい!」
既に葉っぱ一枚だから裸も同然なので、着替えているところ見られてもこの際、関係ないのだが、アリアは気を利かせて小屋の外に出ていってしまった。俺は急いで、貰った服に着替えた。
「どうぞ」
エレーナさんの弟の服を着た俺は、早速皆を中に招き入れた。服は測ったようにピッタリだった。体格は俺と同じくらいだったみたいだな。
中にはアリア、ガイルさん、エレーナさんが入ってきた。エレーナさんは水晶を持っている。話によるよサラさんも来ているはずだけど、中には入って来なかった。あと、クリムゾンも、だ。
俺が不思議そうな顔をしていたのか、アリアが察してくれて疑問に答えてくれた。
「サラさんはとりあえず、ロデオの処遇が決まるまでは外に居てもらってます。ガイルさんやエレーナさんのように、元々、冒険者でもないので総力は高くありません。わかっていてもロデオに操られてしまう可能性もありますので。クリムゾンは
サラさんに関してはそうか。アレックスが心配ですぐに会いたいのはわかるけど、それはそれ、これはこれか。クリムゾンに関しては、話を引っかき回されると面倒だとでもアリアは判断したのかな? もしくはアリアもなんだかんだで怒ってるのかも。
「なるほど。クリムゾンのことは、まぁ、いいか。どうでも」
「早速で悪いんだが、こいつのステータスを計測したいのだが」
ガイルさんが俺とアリアの会話を待ってくれてから、俺に話しかけてきた。
「ええ。って何処まで聞いてます?」
「そうだな。こいつは人を操る紋章の持ち主で、その操る対象はこいつ自身の総力以下だと聞いている。だから冒険者ギルドで一番腕がたつ俺が来た。エレーナも足は不自由だが、総力としてはかなりの物だ。元冒険者だしな」
エレーナさんは少し恥ずかしげに頷いた。あんなことがあって冒険者ギルドの職員をやっているけど、冒険者ギルドにとっても頼りになる存在のようだ。確かに他の職員じゃ総力的に心許ないのかもしれない。
「あと、ロデオの紋章は見ないようにして下さい。まあ、逆らうことは無いと思いますが」
ガイルさんとエレーナさんはゆっくりと一度頷いた。まあ、ロデオはもうそんなことをする気概は無いだろうが。
クリムゾンの強さも目の当たりにしたし、それに対する俺の強さ。そして、ご主人様とまで呼んでいる俺を、なんの躊躇いもなく火柱で包み込むクリムゾンのイカレ具合。仮にロデオが操れるということは、ガイルさんもエレーナさんも、ロデオ以下の力しかないということ。仮にガイルさんやエレーナさんを操れて、逃げ出せたとしても、外にはクリムゾンが待っている。一瞬で焼き尽くされるのは明白だ。
「ああ、わかった。じゃあエレーナ、頼んだ」
「ええ、じゃあこれに
エレーナさんはロデオの前に水晶をコトリと置いた。左手で、と強調したのは警戒している、ということを暗にロデオに伝えた意味もあるのだろう。ロデオは指示通り左手をそっと水晶に乗せた。
「えっと。って何それ!」
エレーナさんが驚いている。何に驚いているんだろう?
「ほ、ほんとか! エレーナ! 間違いはないか?」
水晶を覗き込んでいるガイルさんも驚いていた。ってことは驚いているのはそこに表示されている数値かな? まあ俺は見たところで何て書いてあるかはわからないんだけど。
「総力、856だと……? 転移者なのにそんなにステータスが低いのか!」
ふむ。転移者としては驚くほど低い数値らしい。俺にはよくわからないけど。
「ガイルさん。そんなに低い数値なんですか?」
「ああ、転移者は最低でも千は下らない。紋章によっては数千も超える。俺だって一万に近いし、エレーナだって三千以上ある。この数値だと冒険者の等級だとGくらいじゃないかな? 駆け出しだとちと厳しいが、魔物を相手にしている冒険者たちなら、転移者じゃなくても普通にいる数値だ」
「なるほど。操れるといっても転移者相手じゃまず無理だし、こっちの世界の人でもある程度、強めの人も操れてないってことですね」
ガイルさんもエレーナさんもコクリと頷いた。まだ少し驚いている様子はあるが、同時に脅威には感じなくなっているようだった。嫌われている転移者の強みの一つである、初期ステータスの高さという優位性が無いのだから、脅威に感じない気持ちはわかる。
でも、ってことは俺が最初にステータスを見られた時は、どんな気持ちだったんだろうな。もう水晶は割れちゃうし、シンシア様から貰った魔導具で偽っている今じゃ知る由もないけど。
ちなみにあまり気にしなかったけど、エレーナさんから指示された今の俺の偽りの総力はロデオと大差無い。今の俺の等級がJだから三つか四つくらい上の等級くらいのステータス表記ってことか。
「ああ、これなら俺もエレーナも問題無いだろう。自警団の人でもこれくらいの数値なら普通にいる。紋章のこともわかっていれば問題なく対応できる。とりあえず牢に入れて取り調べ、だろうな。賞金首じゃないから現状では賞金は出ないだろうが、実績は別だ。取り調べの内容次第でケント君の等級にも影響はあるだろう」
確かにロデオは賞金首として貼りだされては無かった。別に賞金が欲しい訳でもないし、俺には特に問題はない。
「わかりました。特に賞金が欲しい訳じゃないし、俺は特に問題無いです」
ロデオは依然として大人しい。ガイルさんもエレーナさんも、自分より総力が全然上だと悟って諦めているのだろう。しかも、ロデオより強くて操れない人間は普通にいることもわかった。俺やクリムゾンに無駄に歯向かったりしない人間だ。相手との実力差に流されてしまうくらいだから、ガイルさんにもエレーナさんにも抵抗する気はさらさら無いようだ。
「ケント君がそう言ってくれると助かる。さ、立て! 俺たちに大人しくついてこい!」
ガイルさんがロデオに声をかけると、諦めているのかロデオはサッと立ち上がった。そして三人で小屋から出て行ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます