第50話 ゼフ婆
「ここがゼフ婆の家だよ!」
とある一軒の家の前で立ち止まった女性は、振り返ってそう俺たちに言った。明かりはまだ灯っている。さすがにまだ寝ているわけでは無さそうだ。
コンコンッ!
「ゼフ婆! ゼフ婆! まだ起きてるかい? ちょっと聞きたいことがあるって旅の方が! アレックスくんのことだって! ちょっと開けておくれよ!」
勢いよくノックし、怒鳴った声が辺りにこだまする。まだ寝入るような時間ではないとはいえ、この声の大きさはさすがに近所迷惑になる、と、俺は思った。
俺は少し焦って辺りを見渡す。こんな大声じゃ野次馬でも集まらないかと思ってだった。が、そんな様子はない。
ガチャリとドアが開かれて中から老婆が顔を出してきた。
「なんだい、バレリア。いつもいつもうるさいねぇ。確かにわしゃ年寄りだけどそんなに大きな声を出さなくても聞こえるよ」
この宿屋の女性はバレリアという名前らしい。ってか名前も聞いてなかったな。しかし、ゼフさんの言葉からか、バレリアさんはいつもうるさいみたいだ。もしかして、周りの家の人もいつもの事だからって気にしなかったのかな? だったら良かったけど、って本当は良くないな。
「ゼフ婆! ゼフ婆! アレックスくんがまだサラさんのところに帰ってないらしいんだよ! サラさんが冒険者ギルドに依頼を出したんだって! で、この人たちがこの村に調べに来たんだよ! だから早くしないと、と思ってゼフ婆のところに連れてきたんだ!」
うん、確かにうるさいかも。そしておしゃべりなのも分かった。俺たちのこと、もう全部話しちゃってるし。話が早いのは助かるけど、これは大変そうだな。ゼフさんと話しててもバレリアさんが無茶苦茶話の腰を折ってきそうだ。
「なに? アレックスが? それは話を聞かないと。中に入りなさい」
ゼフさんはそう言って扉を大きく開いた。バレリアさんが中に入り俺たちそれに続こうとする。が、
「バカもん! バレリア! お前が居たら進む話も進まんわ! 帰れ帰れ!」
ゼフさんがバレリアさんを一喝する声が響き渡る。バレリアさんに勝るとも劣らぬ声量だ。俺は少し怯んでしまった。薄暗くてよく分からなかったけど、結構なお歳に見えたんだけどな。
「でも! でも!」
バレリアさんは必死に食い下がろうとするが、今度はゼフさんはバレリアさんに優しく語りかけた。
「お前がアレックスを心配する気持ちはわかる。だから、こそじゃ。早くこの方々に話を聞かないといけないのだろう? アレックスが心配なのだろう? だからここは我慢するんじゃ」
バレリアさんは押し黙ってしまった。確かにゼフ婆さんの言う通りだと思ったのだろう。しばらくするとバレリアさんは口を開いた。
「わかったよ。アレックスくんのこと、頼んだよ?」
そしてバレリアさんはとぼとぼと帰っていった。
「さ、お入り?」
バレリアさんを見送った俺たちはゼフさんにそう促されて中に入った。
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