第49話 宿屋の女将

「さて、と。もう夜だし宿を取るか」


 辺りはすっかり暗くなってしまっている。今から色々とアレックスのことを調べるのは難しいだろう。それにクリムゾンのお陰で逆に少し時間に余裕ができた。

 だから俺はアリアにそう声をかけた。するとアリアは、はい! と一つ頷いて辺りを見渡した。そして、正面の一つの明かりが灯る建物を指さした。


「あそこが宿屋ですね」


 俺は文字が読めないから、こういうところはアリアに頼るしかない。本当に助かる。


 俺は感謝の意を込めてアリアの頭をポンポンッと撫でた。こうするとアリアは耳を垂らし、尻尾を振ってとても喜ぶんだ。そんなところもすごく可愛いと思う。


「今日は早めに休んで、アレックスのことは明日、早いうちから調べよう」


 俺がアリアとクリムゾンにそう声をかけると、近くを歩いていた少し小太りの女性がピタリと止まり、俺たちに不意に話しかけてきた。


「アレックスってベネザの街の? 無敵薬局要塞系ヒロイン、サラちゃんの店のアレックスくんかい?」


 本当にそんな店の名前なんだ。長いけど、有名なのか? と思いながらも俺はその質問に答えた。


「え、ええ。そうですけど」


「ってことはあんたたち、あのアレックスくんと知り合いなのかい?」


 知り合いって訳じゃないけどなぁ。でも、ここは手がかりになるかもしれないし、軽く話しておいた方がいいか。


「知り合い、って訳じゃないですけど、サラさんがアレックスが帰ってこないからって冒険者ギルドに依頼を出しまして、俺たちがその依頼をうけました。それで調べにきたんです。でも、失礼ですけどあなたこそアレックスを知ってるんですか?」


「まあ、そりゃいつもウチに泊まってるからねぇ、そりゃ心配だわ……」


 その女性は俺たちが向かおうとしていた宿を指さしていた。なるほど、あの宿の女将さんかなにかなんだろう。で、アレックスがいつも泊まってるから知っている。と道理だな。


「ねえ! 明日と言わずに早くゼフ婆のとこに行って話を聞いてやっておくれよ? ね?」


 物凄い勢いで迫り来る女性に俺はたじろいでしまった。


「とは言っても、そのゼフさんにも迷惑なんじゃ?」


 もう夜だ。さすがにこんな時間に訪ねるのは気が引ける。だから明日にしようと思ったんだけども。


「大丈夫だよ! 逆にそれを知って明日まで待たせたらこっちが怒られちまうよ! な? 頼むよ」


 まぁこの人はゼフ婆さんとやらと知り合いらしいし、だったら言う通りにした方が良いのだろう。


「ま、まあ。そこまで言うなら」


「じゃあ案内するよ! こっちだよ!」


 急に駆け出したその女性を俺たちも急いで追いかけた。

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