第48話 風王
クリムゾンのおかげでカンドの村まで二日かかるところを、その日の間中に辿り着くことが出来た。
暗くなっているとはいえ、当然、カンドの村に近付き過ぎる訳にはいかない。今のクリムゾンの姿は、巨大なドラゴンだ。住民がパニックに陥ることは明白だからだ。その場で人の姿になった所で、着替える時間もないし、裸の女性が現れたら、ある意味別のパニックになるだろう。俺たちは少し離れた地点に降り立ち、そこから歩いてカンドの村に向かった。
「いや、助かったよクリムゾン。まさかお前が飛べるなんてな」
契約した時に飛ぶような仕草は確かに見せていた。だが、実際に飛んだところは見たことは無かったし、飛んでいくという方法は思いつかなかった。
「えっへんだZe! ウィリディスに比べれば全然だけど、オレだってこれくらいのことは出来るんだZe!」
「ウィリディス? また初めて聞く名前だなぁ」
初めて聞く名前、ってことは水王アジュールと同じかもしれない。もしかしたら?
「全ての風を統べる者、風王ウィリディスだZe! 乗り心地も速さもさすがにあいつが上だZe! ってオレは乗ったことないけど、ビフォーマスターが言ってたZe!」
やっぱり四王の中の一人? 一体? だった。風を操れるなら飛ぶのも得意なのかも。空気の抵抗だったりあるもんなぁ。さっきだって結構風圧凄かったし、そういう配慮も出来るのかもしれない。
「でも、乗ったこと無いって?」
「ああ、そうだZe! オレたちはあくまでビフォーマスターと契約してただけだからNa! 俺たちをウィリディスが乗せる意味なんかないからNa! それに第一オレたち皆じゃ重すぎだZe! いくらウィリディスでも無理だZe!」
そりゃそうか。以前のマスターとエルフだけならまだしも、クリムゾンだけじゃなくて他に二人? の王がいる。そいつらがどんなのかは知らないが、そんなに乗れないのは仕方ない。クリムゾンだってあと一人くらいが限度だろう。いくらウィリディスが飛ぶのが上手いと言っても、クリムゾンのことを考えればもっと大きいとは考えにくい。
「だからビフォーマスターは馬車で移動してたんだZe!」
「なるほど、な。俺たちも機会があったら馬車でもあった方がいいかもな」
とは言ったものの、俺はとある疑問が浮かんでしまった。
「待てよ? というか以前のマスターとエルフ二人なら飛べるんだろ? 移動してから具現化すれば良かったじゃないか?」
考えてみればそうした方が早いし楽だ。まぁでも何となく予想はつく、が。
「そんなのずっと具現化出来てるウィリディスがずるいZe! オレたちが許すはずないZe!」
でしょうね。俺たちってことは他の王も同じ感じで嫉妬心丸出しなのかも。これは契約できたとしても先が思いやられるな。クリムゾンだけでも苦労してるのに、同じようなのは他に三人も、か。以前のマスターとやらも大変だったろうな。
そんな話をしながら歩いていると俺たちはカンドの村に辿り着いた。
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