第46話 テンプレ
「ケント様、お気をつけ下さい……」
街を出てからしばらく歩いた俺たちは森の中に入った。その森の中を三十分くらい歩いた時だった。アリアが俺の耳元でこっそりと呟いた。
「アリア? どうしたの?」
俺はアリアの意図を察して前を向いたままアリアに尋ねた。
「何かこちらをじっと付けてきているな感じがします」
獣人であるアリアの聴覚は優れている。こういう索敵をやらせたら頼もしいことこの上ない。
「なるほどね。俺のファン……って訳じゃないだろうな」
「恐らくは……そうかと思います。森に入った時からずっと同じような気配を感じてますから」
つまり俺たちを襲うタイミングを計っているわけか。小説やゲームの世界でよくある野党とか盗賊とか呼ばれる類の連中だろう。俺のステータスであれば問題は無いが……せっかくだし、ここはテンプレってやつを楽しませて貰おうかな?
そう思った俺はピタリと足を止めて、アリアが視線で指示した方向に声をかけた。
「おい! そこに居るのはわかってるぞ! 姿を見せろ!」
暫く後、木の影から五人の人影が現れた。顔に布を巻いており、表情を窺い知ることは出来ない。
「チッ! バレてるなら仕方ない! 有り金全部置いてけ! さもないと……」
出た! テンプレ! なら俺も乗るまでだ!
「ちなみに断ったらどうなるんだ?」
「決まってんだろぉ! 断ったら死ぬんだよ!」
「そんな!」
俺は敢えて狼狽えた
「安心しろよ? お前ら女二人は殺さないでおいてやる。さあぁ、どうするんだ?」
ドォォォォォォォォォォォォン!
その時、俺と盗賊たちの間に巨大な火柱が立ち昇る。突如現れたありえない威力の火柱に盗賊たちは慌てふためいた。
「な、なんだ! こんな魔法やべえ! 逃げろ!」
蜘蛛の子を散らすように逃げ出した盗賊たちを後目に、俺は急いで振り向いた。そこには勝ち誇った様子でクリムゾンが仁王立ちをしている。が、そんなクリムゾンが起こした行動に対して、俺はかなり焦り怒ってしまった。
「く、くそ! クリムゾン! お前なんてことをしてくれるんだ!」
俺に怒られると思ってなかったのか、クリムゾンは何故? と言った表情で驚く。
そんなクリムゾンをガン無視して俺はアリアに有り金……じゃなかった有り魔導具全てを出すように指示を出した。
「アリア! ありったけの魔導具を出せ! 水だ! 水が必要だ! 森に燃え移る前に消さないと大変なことになる!」
そう、森の中なんかであんな火柱を上げられちゃ命がいくつあっても足りない。早く消さないと火の海になる。さすがクリムゾン! やってくれるわ!
しばらく後に目の前に存在していたのは、使い果たして既に使えなくなった水を産み出す大量の魔導具と、両手を上げて地面に腹這いになっているクリムゾンの姿であった。
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