第42話 無くした記憶

 なんだ、これは……ふわふわ……もふもふしてる……気持ちいいな……これはなんだろう……


 俺はゆっくりと目を開ける。するとまだぼんやりとしている俺の瞳に飛び込ん来たのは至近距離にあるアリアの顔だった。ってなんで!


 俺はガバッと勢いよく起き上がると辺りを見渡す。ここ、は? 俺の部屋で俺のベッドだ。アリアはまだすやすやと寝ている。


「なんでベッドに? って、いてて」


 俺はこめかみに痛みを感じ、顔を顰めながらこめかみを押さえた。少し胃の中もむかむかするようだ。今まで経験したことのない気持ち悪さだ。


「おそようだZe! ナウマスター! 昨日は楽しかったかYo!」


 ソファに腰掛けているクリムゾンはずっと俺の様子を伺っていたのか、起きたことにすぐ気づいておはようの挨拶、いや、おそようの挨拶をしてきた。昨日は急に目に飛び込んできた際どい胸元に動揺したが、この距離だしもう動揺することなんかない、はず……?


 しかし、き、昨日は楽しかったか? だと? 二杯目のエールを飲むところまでしか記憶にない。俺がアリアに何かをしたのか? アリアは……いや、服を着てる。多分大丈夫だ。やましいことはないはず? いや、絶対に無い!


「き、昨日はあれからどうなったんだ? 正直二杯目までしか覚えてない………」


「なんだ、覚えてないのかYo! ナウマスター! オレとエールを飲む量で対決しようなんて一万年早いZe!」


 俺はクリムゾンとエールの飲む量で対決したのか。だから気持ち悪いし、頭も痛いのか。これが二日酔いってやつか……

 しかし、一万年早いって言ってもクリムゾンが言うとマジで信憑性あるなぁ。なんせ一万年以上は生きてるはずだから。


「でも、たった五杯で倒れるなんて、例えハンデがあった所でオレが負けるはずないZe!」


「ハンデ? 俺よりクリムゾンは飲んだってのか?」


 クリムゾンが降りてきた時点で俺は既に一杯飲んでいたんだし、ハンデくらいあっても当たり前だろう。ってか俺が先に飲んでたのが既にハンデだ。二杯や三杯くらいのハンデは俺にあってもいいはずだ。


「ハンデは十倍だZe! ナウマスターが一杯飲んだらオレは十杯飲んだZe! カフェのマスターも驚いてたZe!」


 あ、いや、前言撤回します。そりゃ勝てないわ。それに、そんな量を飲むのを見たらマスターも驚くのも当然だ。


「クリムゾンは酒に強いのか……」


「で、ケント様に助太刀します! ってアリアが一口飲んだらバタンキューだZe! だからオレが部屋まで連れてきてやったんだZe!」


「そうか……ありがとなクリムゾン。だが、俺のベッドはここ! アリアのベッドはそっちだ! でお前はこっち! わかったな? 皆それぞれ別々のベッドだ!」


 俺はそれぞれのベッドを指さしながら、クリムゾンに指示を出した。まあ、知らなかったんだし


「わかったZe! ナウマスター!」


「ってお前のベッドやけに綺麗だな。ま、まさかお前……」


 アリアは俺のベッドに寝ているから、アリアのベッドが綺麗なのはわかる。使っていないはずだから。でも、もう二つのベッドは全く乱れてない。ってことはクリムゾンはこの二つのベッドで寝てないってことだ。つまりそれが意味すること、は……まさかクリムゾンも俺のベッドで!


「オウ! オレは人間じゃないから寝なくても大丈夫なんだZe!」


「ですよねー! まさかクリムゾンも一緒のベッドになんか寝てないですよねー」


「どうしたのかYo? ナウマスター! 顔が汗でびっちょりだZe!」


「いやー、アリアと寝たからか暑くって! ちょっと水浴びしてくるわ!」


 俺は照れ隠しに勢いよくベッドから飛び降り水浴びへと向かったのだった。

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