第39話 エレーナの妹

「これで大丈夫でしょう」


 エレーナさん行きつけの服屋でクリムゾンの服を色々見繕って貰った。女性のことは女性に任せた方がよいだろう、と思って全てエレーナさんとアリアに任せた。


「ありがとうございます。早速宿に帰ってクリムゾンに着せますね」


「ええ、機嫌を損ねないでね? あんなドラゴンに暴れ回られちゃったら冒険者ギルドから討伐依頼が出かねないから」


 エレーナさんは苦笑いを浮かべた。確かにそんなことをしたら冒険者ギルドから討伐依頼が出てしまうだろう。そして俺はお尋ね者になってしまう。そりゃまずい。


「そんなことはさせませんよ」


「もちろん、冗談よ。ってかあんなの倒せる人間いる訳ないしね。じゃあ私はこれで」


 エレーナさんは軽く手を挙げて俺に別れを告げる。俺も頭を軽く下げて再度今日の御礼を伝えた。


「今日はありがとうございました」


「じゃあ宿に戻ろうか」


「はい!」


 服屋からカフェ兼宿までは近く、すぐそこの十字路を曲がれば見える距離だった。マスターとも知り合いだし、エレーナさん行きつけの服屋も近い。エレーナさんはこの辺りに住んでるんだろう。足も悪いから生活圏はさほど大きくないだろうし。


「マスター、ただいま!」


 俺はカウンターのマスターごしに挨拶をしてアリアと共に席についた。マスターは俺たちに気づいて挨拶を返してくれる。


「おう、お帰り! とりあえずエールでいいか?」


「あ、いやぁ。お酒はちょっと……」


 俺が渋るとマスターは苦笑いを浮かべた。昨日は一口でアリアが酔い潰れてしまったことを知っているからだ。


「ああ、そういえば昨日は散々だったもんな。じゃあほら、とりあえず水でも飲みな」


「ありがとうございます」


 と、返事をし、俺もアリアも水をごくごくと一息に飲み干した。


「ところでその荷物はどうしたんだ?」


 マスターは買った服が入っている袋に気がついた。ちなみに服だけじゃなくて魔石も一緒に入れられるように大きめの袋にしてもらった。アリアにずっと持たせるのも悪いし。


「ああ、これはエレーナさんに付き合って貰って服を買ったんです」


 マスターはなるほど、といった感じの表情を浮かべて何度も頷いた。そして思い出すようにしみじみと語った。


「エレーナかぁ。あいつも大変だよな。妹の為に潜った遺跡で恋人も弟も亡くしちまうんだからよ」


 俺は弟さんたちが亡くなったことは知っていたが妹さんのことは初耳だった。


「エレーナさんって妹もいるんですか?」


「ああ、いるよ。病弱で確か目も見えない。サニアって子だ。お前さんより少し歳上くらいのはずだ。そういえばアンデス、いや、エレーナの弟と言った方が良かったか。名前は知らないもんな? そう、あいつらが亡くなったのはお前さんと同じくらいの歳だったな」


 エレーナさんの弟さんが亡くなったのは俺くらいの歳だったのか。エレーナさんの年齢を察するに十年くらいは前かな。もしかしたら、弟さんのこともあって俺のことを気にかけてくれてるのかもしれない。でも、そんな妹さんがいるのに色々付き合って貰って申し訳ない。今度御礼をしないと。


「ふう、しかし何だか暑いなぁ」


 マスターが手で顔をパタパタと仰いでいる。マスターの額は汗が滲んでいるようだ。ってまさか!


「マスター! 急用を思い出した! ちょっとすぐに部屋に行きます!」


 俺は急いで自分の部屋に向かった。

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