第38話 真・クリムゾン

「クリムゾン! 止めろ!」


 ピタッ!


 焦って投げかけた制止の言葉にクリムゾンは一瞬ビクっと跳ねてピタリと止まる。俺の言葉すら無視して飛び掛かりかねなかった様子など何処にもない。なんなら、怯えているような後ろ姿にも見えるほどだ。


 あ、あれ? 今までの勢いは……? 俺の言うことは聞くのか? それなら連れていっても大丈夫かも。ただ、周りに迷惑をかける訳にはいかないからなぁ。俺以外に対して傍若無人な振る舞いをしちゃったら困るし。


「仕方ない。契約破棄して他の精霊と契約を結ぶかぁ」


 俺はぼそりとそう呟いた。すると即座にクリムゾンは両手を勢いよく上にあげてバンザイをし、そのまま俺に向かってビターンと倒れ地面に腹這いになった。一瞬前が見えたが一瞬だったので大丈夫だった。そして無茶苦茶痛くて100%鼻血がでてるだろうくらいの勢いで、顔面強打をしてるだろうが、クリムゾンはそんなことお構いなしだ。


「止めて! 捨てないで! なんでもしますから!」


 ん? もしかして、この姿勢はいわゆる土下座みたいなものか? ドラゴンの姿で謝ってた時と姿勢が似てる。しかし、さっきもだけど、


「クリムゾン? 口調が変わって、るぞ?」


 もしかしてこっちが素なのかもしれない。いつもは虚勢を張っているのかも?


「は……! なんでもしますからだZe!」


 うん、この反応は恐らく間違いないだろう。こいつはいつも虚勢を張っていて、おびえている姿が素、なんだ。そう思うとクリムゾンはもう怖くない。と言うよりも御しやすそうだ。


「とりあえずエレーナさんに謝れ」


 俺はわざと少しだけ低い声でクリムゾンにそう告げた。俺の言葉にクリムゾンは腹這いになったまま、エレーナさんの方にぐるりと向きを変えた。


「ごめんなさいだZe!」


 ちょっと面白い。弄ってやろうかなぁ。


「クリムゾン! ちゃんと謝りなさい? そんな謝罪で許されると思ってるのか?」


「滅相もない! 大変申し訳ございませんでした!」


 エレーナさんはとても驚いているが、もう大丈夫そうだ。エレーナさんに恐怖の色は見えない。


「よし、許そう」


「ありがとうございます」


 クリムゾンはまたも腹這いのままぐるりと俺の方に向き直した。


「というか、クリムゾン? お前もしかして、本当はそういう性格なのか?」


 俺は確信を持ってはいたが念のためにクリムゾンにそう尋ねた。


「はいぃ。以前のマスターに王として威厳がないと。考えた末にあのような口調ならまだ威厳を保つことが出来まして……」


「なんだかなぁ」


 あれを威厳と言うのかは甚だ疑問だが、クリムゾン自身がそう思っているなら否定しても仕方がない。


「もし可能なら、あのような口調を許して頂けませんでしょうか? このままだとどんどんどんどんネガティブになってしまうので」


「まあ、いいぞ」


「ありがたいZe!」


 地面に突っ伏してるので表情はわからないが、クリムゾンの全身から喜びのオーラが滲み出ているのはわかる。


「ただし、俺の命令は聞くこと。あと、俺の仲間や知り合いに迷惑をかけないこと。とりあえずここにいるエレーナさんやアリアにだ」


「女と人形だな! 名前も覚えたZe! それにナウマスターの命令ならなんでも聞いてるZe! どうにかしろって言うから人の姿になったし、服を着ろって言うから服を手に入れようとしたんだZe!」


 そう言われてみればそうかも。俺がもっと具体的な命令を出せば良かったのか?


「じゃあ、姿を消せって言えば消すのか?」


「ウゥゥゥ、消すZe……」


 如何にも消えたくなさそうな声色でクリムゾンは答えた。が、エレーナさんがそんなクリムゾンに疑問を投げかける。


「待って! そもそも具現化には大量の魔力の消費があるのよ? よくよく考えたらどうしてこんなに長く具現化していられるの?」


 魔力の消費については初耳だけど、そういえばフランクもサラマンダーをずっと出している訳ではなかった。エレーナさんの疑問も当然だろう。


「ナウマスターの魔力はいくら喰っても減らないんだから当然だZe!」


 魔力を喰ってる? クリムゾンは何も言わずに今まで俺の魔力を消費し続けてたってことか。でも、俺に違和感は特に何も無かったからクリムゾンの言う通りなのだろう。


「魔力の心配はいらないから、オレを具現化させてくれYo!」


「わかったよ。も、とりあえず服を用意するまで消えてて貰えないか?」


「……すぐ用意して貰えるの?」


 今にも消え去りそうな声でクリムゾンが尋ねた。心配で素が出てしまったみたいだ。


「あ、ああ。この後すぐに、だ」


「わかったYo!」


 そう言うとクリムゾンの姿がスっと消えた。そして俺は大きくため息を吐いた。


「なんかどっと疲れたなぁ。エレーナさん、アリア、驚かせてごめん。とりあえず服を買うの手伝ってくれないか?」


「わかったわ」


「かしこまりました」


 そう言って二人は立ち上がった。そして三人揃って扉から出て行った。

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