第37話 王の命令

「なんで裸の女性がいるんだよ!」


「ん? オレはずっと裸だっただRo! 何言ってんだYo!」


 この口調、間違いなくクリムゾンだ! 確かにクリムゾンの言う通り裸だったかもしれないけど、さっきと今とじゃ状況が違いすぎる!


「確かにさっきまでも裸だったのかもしれないけど、今は人の姿だし状況が違うだろ!」


「オレにとってはどっちも一緒だZe! 気にすることはないZe!」


 と、その時、神殿の扉が開いた。中からはフランクがゆっくりと出てきた。


「ん? 大きな音がしたかと思って見に来たらなんでここに裸の女性が? そうか、俺様の夜の相手をしたいのか? 良いぞ!」


 フランクは裸のクリムゾンを見て、どんな勘違いをしたのか疑問に思うが、クリムゾンに対して傲慢な言葉を投げかけた。


「何言ってんDa? お前ぶっ殺すZe!」


 しかし、クリムゾンもクリムゾンだ。いきなりぶっ殺すとかまずい。俺は慌てて止めようとしたが、その言葉に対して、即座に反応したのはフランクだった。すぐにサラマンダーを具現化してクリムゾンに敵意を向ける。


「俺様を殺すだと? ふざけるな! お前を殺してやるわ!」


「サラマンダー? フンッ! 消えろYo!」


 クリムゾンが指をパチンと鳴らした。するとフランクが出したサラマンダーの姿がスっと消えた。フランクは何が起きたのかわからず狼狽えるばかり。


「あ、あれ? な、何が起きやがった!」


「オレがサラマンダーに契約を破棄させたんだZe! 火の精霊ならオレの命令は絶対だからNa! お前はもう火の魔法を一生・・使うことは出来ないZe!」


 フランクは慌てて何度も手を前に出したり振り上げたりするが、特に何も起きることは無い。フランクは魔法を出そうと必死になっているようだった。しかしクリムゾンは契約を破棄させた、と言った。しかもフランクは火の精霊と一生契約を結び直すことは出来ないのだろう。それほど王の命令は絶対なのだと感じさせられるような口ぶりと態度だった。


「クッ! クソッ! 覚えてろよ!」


 フランクは慌てて神殿の中に入って行った。どうやら逃げ出したようだ。自分の中で絶対だった火の魔法を取り上げられて、どうのこうの出来るはずがないと悟ったようだ。これで傲慢さも無くなってくれると良いのだが。


「さて、ナウマスター! 邪魔者は去ったYo! さっさと行こうZe!」


 クリムゾンはすっきりした! とばかりの口調で俺に話しかけてきた。ただ、フランクの所為ですっかり忘れていたが、クリムゾンが裸なのは何も変わっていない。俺はまだクリムゾンを見ることなんか出来やしない。


「いや、邪魔者は去ったかもしれないけど、問題は何も解決してないから!」


「オレは裸でも構わないZe!」


「裸では出歩けないの! 服を着なさい!」


 俺の言葉を聞いてクリムゾンは暫く押し黙った。それから何かを企むかのように、ゆっくりとした口調で言葉を発した。


「良いことを思いついた……Ze!」


 ヒタッ! ヒタッ! と足音が聞こえる。クリムゾンは目を背けた俺の横をゆっくりと通り過ぎて、まだ座りこんでいるエレーナさんの目の前で止まった。クリムゾンの後ろ姿なら俺にも何とか見ることは出来る。


「おい、女! さっさとそれを脱げYo! そしてオレに渡せYo!」


 エレーナさんの服を奪う気らしい。しかしエレーナさんは当然拒絶する。


「い、いやよ!」


「力ずくでも脱がせてやるZe!」


 クリムゾンはエレーナさんに今にも飛びかからんと身構えた。人の姿に変わったとはいえ、クリムゾンはドラゴンだ。エレーナさんの身が危ない! 殺されるんじゃ! 

 俺の全身を冷や汗が流れ落ちるように感じた。

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