第35話 火を統べる存在

 エレーナさんは離れろ! と言っていたが、俺はその姿を見ても恐怖を感じなかった。それどころか、何か懐かしいと似たような感情を抱いた。


 目の前のドラゴンが俺の目の前まで首をぐわっと下げて大きな口を開いた。


「オウ! 久しいな人間!」


「喋った! せ、精霊が!」


 背後でエレーナさんが驚いている。精霊が喋ることは驚くべきことらしい。ってかそもそも精霊なのか?


「おい! そこの女! オレを精霊なんかと一緒にするんじゃねぇYo!」


 今度は俺の正面から首をずらして、ドラゴンはエレーナさんに視線を移した。どうやら俺だけが話せる訳じゃないみたい。エレーナさんの声もドラゴンに届くし、ドラゴンの声もエレーナさんに届く。具現化? なのか?


「おいおい、じゃあお前は何なんだ?」


「オイオイ、オレを忘れちまったってのかYo! 寂しすぎるZe! マイマスター!」


 先ほどドラゴンが久しいな、って言ったのは人間自体が久しぶりなのかと思ったが、どうやら違ったようだ。俺のことを他の誰かと間違えているみたいだ。


「いやいや、そもそも俺はおまえと初対面なんだが?」


 ドラゴンは暫く考え込むかのように首を傾げた。右に左に何度かそれを繰り返したあと、何かわかったのか、前足をドンッと地面に叩きつけた。砂埃が舞い、地面に大きなクレーターが出来る。


「初対面だと……オウッ! しまった! 人間はさっさと死んじまうんだったZe! オレの昔のマスターによく似てて間違えちまったZe! 許せナウマスター!」


「ま、まあ、良いけど。って、そうそう、だからお前は何者なんだ?」


「オレか? 全ての火を統べる存在、火王クリムゾン様だZe!」


「全ての火を統べる? サラマンダーが最上位の火の精霊じゃないのか?」


 俺は先ほどのフランクの言葉を投げかけた。サラマンダーが火の最上級精霊って言っていた。エレーナさんもそう思っているようだったし、最上級精霊よりも上ってことなのか?


「Da・Ka・Ra! サラマンダー如きと比べるなって言ってんだYo! いくらナウマスターと言っても怒るZe!」


 怒ると言ってもその声に怒気は感じられない。どうやらクリムゾンもふざけている感じがある。なら俺もちょっとふざけてみよう。

 俺は腕を組んで少しいたずらっぽい笑みを浮かべた。


「へえ? 怒るとどうなるんだ?」


 どうやらクリムゾンには効果的過ぎたみたいだ。急に腹這いになり、頭を地面にペタっとつけてしまった。


「ウグッ! 嘘です! すいません何でもしますから!」


「 ん? 今、何でもするって言ったよね?」


 俺はそのクリムゾンの姿が面白くて、より調子に乗ってしまった。


「じゃあ僕と契約して魔法少女になってよ!」


「だが断る! って魔法少女ってなんだYo! ってかナウマスター? 契約してって言ってもオレがここに現れてる時点で契約は成立してるんだZe! だからずっとナウマスターって言ってるんだZe!」

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