第34話 具現化

 俺たちが扉をくぐると、向こうにはエレーナさんが待っていた。扉の先は思ったよりも広い。先ほどの謁見の間よりもだ。サッカーコートとまではいかないが、それの半分以上の広さはあるように思える。青空も見えた。


「アリアちゃん、気持ちはわかるけどここは抑えないと……」


 エレーナさんがアリアの先ほどの態度を諌めた。異世界人の俺には注意を促したが、この世界に生きているアリアまでああ・・なってしまうのは想定外だったのだろう。アリアには記憶は無い、とは言ってもそういう嫌悪感は失われないものなのかもしれない。本能的に刻み込まれているというか。俺も失念していた。エレーナさんもアリアも悪くない。今後は気をつけないとな。


「すいません、なんか胸がムカムカしてしまって……」


「相手は精霊を具現化出来るほどの魔力を持ってるのよ? ほっとくしかないでしょう」


 精霊を具現化、か。確かに前の人の時に何か現れていた。あれが精霊なんだろう。


「そう言えばサラマンダーとか言ってましたね」


「ええ、契約出来る精霊は一人一人違うの。その契約出来る精霊によって使える魔法の威力も変わる。そして、その精霊が具現化に値すると認める相手なら精霊は少しの間・・・・だけ具現化して現れることが出来る。と言っても具現化出来る人なんて世界に百人といないんだけどね」


 あのフランクとやらはこの世界で百人もいない実力者のようだ。となると、エレーナさんがアリアを諌めるのも致し方ない。多分、この口ぶりだとエレーナさんは具現化出来ない。フランクの足元にも及ばないのだろう。


「とりあえずあいつのことは忘れましょ! さ、ケント君はどんな精霊と契約出来るのかしら?」


 エレーナさんは微笑みを浮かべてどうぞどうぞ! とばかりに半身をずらし、手で指し示す。その指し示した地面には、円の中に何かが色々書かれていた。


「どうすればいいんですか?」


「魔法陣の中に立って念じれば心の中に・・・・向こうから問いかけてくれるわ」


 多分あの円形の何かが魔法陣なのだろう。俺は早速その魔法陣の中心に立って感じるままに念じた。すると、俺の思いに呼応するように目の前に巨大な火柱が立ち上った。不思議と熱さは感じない。どちらかというと心地よい暖かさを感じるくらいだ。


「エレーナさん! 何か出ましたよ!」


 俺が少し興奮して振り返ると、エレーナさんの呆然とした顔が目に入った。エレーナさんの想定外の出来事が起きているみたい。


「う、うそ! 何これ! 目に見える形で何か起きるなんて有り得ないわ!」


 そう言えば心の中に問いかけてくれるって話だったな。エレーナさんにも見えるってことはこれは俺の心の中・・・じゃないな。

 と思っていると、エレーナさんが腰を抜かしてへなへなと座りこんでしまった。表情が呆然から焦りに変わる。


「ケント君! 危ないわ! 離れなさい!」


 立てないながらも何とか俺に離れるように叫ぶエレーナさん。その瞳には恐怖の色が見える。エレーナさんの視線は俺の背後に向けられている。

 俺は気になって振り返るとそこに先ほどまであった火柱は無かった。代わりに存在したのは、紅く燃えるような色で光り輝いている全長30メートルはあろうかという一体のドラゴンだった。

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