第31話 500万クローネ
「おう、入れ」
ガイルさんの言葉に応えるように扉が開かれると、そこには二人の男性が立っていた。一人は先ほど水晶を持ってきた人物。確かバーネットさんと言ったかな? 袋を一つ持っている。横には少し小太りの男性が先ほどの魔石を抱えていた。
「ドミニクよぉ、鑑定は、済んでないみたいだよな? どうした?」
小太りの男性はぐもぐもと何か喋っているようだけど、小声過ぎて何も聞こえない。そう言えばガイルさんが誰かに責任持って鑑定しろって言ってたな。確かドミニクとか言ってたはず。あの小太りの男性がドミニクさんなのだろう。
「いえ、一応出来る限りは終わりましたけど、無理ですね。殆ど買い取れません。買い取れるのは今のこのギルドでは500万クローネが限界です」
全く聞こえないドミニクさんに変わってバーネットさんが答えてくれた。袋を持っているし、あの中身が500万クローネなんだろう。って500万……? 確か昨日は二人で5000クローネだったはず。魔石一個で50000クローネだったから食事含めて五日は泊まれるって話だったから、諸々で一日10000クローネくらいか。円換算で一クローネが一円くらいで考えると、五百万円! やば! 大金持ちじゃん! ってでも、魔石は全然減ってないように見えるけど?
「え? でも昨日は問題なく買い取れたじゃないですか? 殆ど残ってませんか?」
俺の質問にエレーナさんが呆れたような声で答えた。
「昨日のはサイズも小さかったからねぇ」
ガイルさんは諦めたような声で続けた。
「それに、今日のはほとんど古代魔獣の魔石だしなぁ」
場は沈黙に包まれてしまった。ただ一つ、ドミニクさんの『ぐもっ! ぐもっ!』としか聞こえない微かな唸り声を除いて、だが……
暫くの沈黙の後に口を開いたのはガイルさんだった。
「魔石ってのは魔導具の材料になるんだ。古代魔獣の魔石は格段に込められる魔法の威力も違うし、耐久性も比較にならない。だから古代魔獣の魔石から出来た魔導具ってのはとんでもなく高価なんだ。ただ……」
「ただ?」
「高価だからこそ買う者も限られていてなかなか売れない」
なるほど、需要と供給か。俺の供給量が多すぎたみたいだ。なら売れないのも仕方ない、か。まあ、タイミングを見て売ればいいし、他の冒険者ギルドなら買い取って貰えるかもしれない。今は500万クローネもあれば当分困ることも無いだろうし、無理にゴネても意味は無い。ここは大人しくお金を貰って、余った魔石は持って帰るしかないだろう。
俺はガイルさんの言葉に納得して頷いていると、バーネットさんが訝しげな顔でガイルさんに尋ねた。
「ガイルさん、この人何者なんですか?」
「さあな? 記憶が無くてケントって名前以外は自分が何者かも知らないらしい。気がついたらロストランドに居たんだと。魔石も拾いもんらしいが、そもそもロストランドを抜けてくるくらいだ。強さは、まぁ申し分ないだろう」
ガイルさんの無茶苦茶な紹介に俺は内心ひやひやした。バーネットさんは異世界人が嫌いらしいし、何か疑われるかもしれない、と。
「へぇ?」
バーネットさんは今度は俺に視線を向ける。まるで、俺の奥底まで見抜こうとするかのような視線だ。だが、その視線を察したのか否か、ガイルさんが俺とバーネットさんの間に立ちはだかった。
「ま、そういうことだから、ケントが何か依頼を受けたいってなったら等級問わず許可してやれ」
「何を無茶な!」
ガイルさんの言葉にバーネットさんが大声をあげた。やっぱり無茶な話みたいだ。そりゃそうだよな。
「まぁまぁ黙って言うことを聞けって、俺が全部責任を取るから」
「まぁ。ガイルさんがそこまで言うのなら」
「ぐもっ!」
あれ? 意外とすんなり通ってしまった。やっぱりなんだかんだでガイルさんは人望があるみたいだ。
「と、そうだ! これから火の神殿に行くって話だったな。丁度いいんじゃないか? 魔導具のことも少しはわかるだろう」
「あ、確かに……」
エレーナさんが何か納得した様子で頷いていた。するとすぐに立ち上がった。
「じゃあケント君、アリアちゃん! 火の神殿に案内してあげるわ」
俺はバーネットさんからお金の入った袋を、アリアはドミニクさんから魔石の入った袋を受け取り、エレーナさんと一緒に冒険者ギルドを出た。
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