第25話 ギルドマスター・ガイル①

「いや、何者って言われても。ただの異世界人だけど」


 俺はエレーナさんに小声で答えた。昨日とはうって変わってのエレーナさんの驚きっぷりから、俺はヤバいことをしたのかもしれない、と思っていた。だってあのエレーナさんが注目を浴びるようなことをしちゃうんだよ? 実際、俺は多くの視線が突き刺さっているのを感じている。


「おうおう? どうしたんだ? 騒がしいと思って出てきたら、何が起きてやがる?」


 俺が何も答えられずに立ち尽くしていると、背後から図太い声が聞こえた。振り返ると2メートルはあろうかという筋骨隆々の巨大な男性が立っていた。頭髪は生えていないが、口周りには大量の黒い髭を蓄えている。左目には眼帯をつけていて、古傷だらけの肉体は歴戦の勇士、といった感じがする。


「あ、ガイルさん。すいません、ちょっと驚いちゃって。ケント君、あ、この冒険者が有り得ない量の魔石を持ち込んで来たもので」


 エレーナさんは俺越しにその男性に話しかけた。ガイルという名前なのだろう。知り合いなのだろうが、その口調からはエレーナさんよりも偉い立場なのかもしれない。


 そのガイルさんは腕を組んで何度も頷いている。視線は魔石の山、エレーナさん、俺を何度も行き来しているようだ。


「確かになぁ。これは驚くのも無理はねぇ。でもな、エレーナ。驚くのは量だけじゃねぇぞ。あれは多分古代魔獣の魔石だよ。S級冒険者が束になって勝てるか? って魔物だよ。しかも一つ二つじゃねぇ。ケントって言ったか? お前何者なんだ?」


 ガイルさんは俺をじっと見つめた。何者って言われても、ただの異世界の少年なのだが、昨日のエレーナさんの話だと異世界人を嫌っている人も多いらしいし、ガイルさんがそうだとしたら気軽に話す訳にも行かない。それにこの場には他の視線が多すぎる。第一、このガイルさんは何者なんだ?


「あ、えっと」


 俺がそう思って答えに困っていると、ガイルさんは慌てて口を開いてきた。


「ああ、すまねぇ。俺も驚いちまって忘れてたわ。俺はガイル。ここベネザの街の冒険者ギルドのギルドマスターをしている。色々と話を聞いてみたいんだが……ここじゃあな。俺の部屋に来てくれないか?」


 どうやらここの一番偉い人のようだ。別室で、ということだし、冒険者として活動するには話をしておいて損はないだろう。

 そう思った俺は黙って頷いた。


「ありがてぇ。おい、エレーナ! お前も来い! ドミニク! お前は責任持って、その魔石の山を鑑定しやがれ!」


 そう言ってガイルさんはくるりと振り向いて後ろにあった階段を登りだした。俺はその後ろを付いていった。

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