第19話 エレーナとの会話①
俺はその問いにどう答えたら良いかわからず黙ってしまった。アリアも動揺したのか先ほどまでの勢いはない。
しかし、俺たち二人とも黙り込んでいるという事は肯定しているのということと一緒だ。
「大丈夫よ。別に言いふらそうとかそういうつもりではないから。でも……」
エレーナさんは辺りを見渡した。そしてスっと手を挙げた。
「あ、マスター! ちょうどいい! 奥、空いてる?」
どうもエレーナさんはここのマスターと知り合いのようだ。気さくに話しかけている。マスターが頷くとエレーナさんも頷き返してから俺たちに話しかけた。
「奥に個室があるの。ここじゃ話しづらいことでもあるし、出来れば人目に付かないところがいいんだけど、移動して貰えないかな?」
俺はアリアと顔を見合わせた。確かに俺たちにとって大事な話のようだ。
「とりあえずついて行っていいかな?」
「ケント様がそう仰るなら……」
アリアの答えを聞いてから俺はエレーナさんを見て頷いた。エレーナさんも頷き返してくれた。
店員に案内され少し騒がしい店内を抜けると、奥に通路があった。いくつか扉があり、俺たちはその中の一つに入った。椅子に腰掛けると早速エレーナさんがメニューを開いた。
「さて、まずは飲み物でも、エールでいい?」
エールって多分ビールみたいな飲み物だよな。ってアルコールじゃ未成年飲めないじゃん!
「あ、いや。水で……」
「何を言ってるのよ? これから冒険者をやっていこうって! ってならエールの一つや二つくらい飲めないと! 大丈夫よ、今日は私が奢るから、という訳でエールを三つ!」
「え! 私もですか!」
「そそ! 堅いことは言わないのよ!」
店員は注文を聞くとすぐに出ていった。飲み物の注文なのですぐにエールが三つと水が三つ運ばれてきた。そりゃ水は運んでくれるか。良かったぁ。
「じゃあ乾杯!」
エレーナさんの言葉でとりあえずエールを口に含む。に、にげぇ。も、もういいです……
俺は一口だけ飲むと水で口を紛らわせた。アリアも一口だけ飲んでもうグラスを置いて俯いている。やっぱり合わなかったのだろう。
「さて、と。まずはさっきは怒らせちゃってごめんね。あまりギルドの受付で話す訳にもいかなかったから」
「い、いえ」
エレーナさんなりに考えてのことなんだろう。アリアは……俯いたままだけど、特に反応無いから今は怒ってないのかもしれない。
「そう、ねぇ。まず貴方達の素性を聞きたいんだけど、ケント君は異世界人でいいわね? アリアちゃんは奴隷?」
「俺はそうだけど、アリアは奴隷なんかじゃない!」
俺は語気を強めてしまった。アリアを奴隷扱いされて少しイラッとしてしまったからだ。
「奴隷じゃないの? てっきりそうだと思ってた。異世界人が読み書き含めて身の回りの世話をさせるのに奴隷を買うのは当たり前なのよ。ごめんね」
「なるほど。そういうことなら勘違いも仕方ないですね……」
確かにそれが常識なら、エレーナさんがそう思うのは仕方ない。俺はこの世界のことを知らなすぎる。
「じゃあ、ケント君は何処でアリアちゃんと出会ったの?」
俺はアリアを見た。アリアは俯いてじっと聞いている。エレーナさんは色々話してくれるが余計な話をしない方がいいかも知れない。シンシア様のことは黙っていよう。
「実は、俺は魔の森に召喚早々棄てられて。アリアは魔物に襲われているところを助けました。でも、どうやらその時の恐怖で記憶を無くしてしまったようで…」
嘘だけだとボロが出そうだったので、なるべく事実を交えて話すことにした。アリアは俯いてじっと聞いているので、俺に合わせてくれているのだろう。
「魔の森に棄てられた? じゃあもしかしてケント君を召喚したのはプラトン? あの噂は本当なのかしら……」
エレーナさんがブツブツ呟いている。少し耳に入った噂とやらが気になった俺はエレーナさんに尋ねた。
「噂ってなんですか?」
「えっと。プラトンが他国に戦争を仕掛けるじゃないかって話よ」
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