第17話 受付嬢のエレーナ

 と、その時、ポケットの中にあった物が手にあたり、その存在を思い出した。


「そうだ、こういうのって買い取りとかしてますか?」


 俺はポケットの中にあったものを取り出し、カウンターの上に置いた。魔物を倒した時に手に入った宝石のような物だ。最初にアリアを助けた時の物だ。


「へぇ、魔石ですか。勿論良いですけど」


 受付嬢は宝石、いや、魔石を手に取って後ろの男性に手渡した。多分査定でもしてくれるのだろう。


「でも、どうやって魔石を手に入れたんですか?」


「え? どうやってって? 普通に倒しただけですけど?」


「そうですか……貴方何か隠してませんか?」


 受付嬢はカウンターに肘をついて顔を乗せ、覗き込むように俺をじっと見た。


「別に拾った物でも問題ないですよ? 魔石は持ち込んだ人であれば誰でも換金できますから。入手手段は問わないですよ?」


「拾ってないですってば……」


 俺が困ったように呟くと、今度は椅子に深く座り直した。


「まぁそういう事にしておきましょう。そんなステータスじゃ魔物を倒せやしないんですから」


 俺はハッとした。シンシア様に聞いてこの世界の人と同じようなステータスに偽装したのが失敗だったのか。最初にあっさりと倒してしまったから、魔物と、この世界の人との力関係を意識することを忘れていた。

 いや、シンシア様の話だと、異世界人だと隠せるならそっちの方がいい。ステータスに関しては逆に問題ない。ってことは知らずに魔石とやらを出してしまったのが失敗だったかも。

 でもお金は必要だし仕方ないか。


「そう言えば俺のステータスをお姉さんは知ってるんですよね? 本当は拾ったんです。嘘を吐いてすいませんでした」


「いいのよ、別に謝って欲しい訳じゃなかったんだから。ちょっと気になっただけよ。私も言いすぎてごめんね」


 受付嬢はてへっと舌を出して小悪魔っぽくウインクをする。何故かアリアのいるはずの空間から殺気を感じた。俺は怖くてアリアを見ることが出来なかった。


「いやね、ここに座っているとむっさい野郎どもばっかりお相手しなきゃならないのよ。たまにはカッコイイ男の子にもちょっかい出した……」


「もう査定は終わってるんですか! ケント様を困らせないで下さい!」


 急にアリアが割り込んできた。待って、今この受付嬢、俺のことカッコイイって言ったよね?


「ちょ、ちょっとアリア? 俺は別に困ってないし、そんな怒らな……」


 俺はアリアを止めて受付嬢を庇おうとしたが、こちらを向くこともないアリアの殺気に気圧されて黙ってしまった。


「ケント様は黙ってて下さい! 終わってるんですよね?」


 アリアの圧など何処吹く風と受付嬢は態度を変えるような様子は無かった。後ろの職員達は震え上がっている。さすが、むっさい野郎どもを相手にしている。肝が座ってるどころじゃない。


「そんな怒らなくてもいいじゃない。ほらぁ! 終わってるでしょ?」


 受付嬢は振り向くこともせずにそう言うと、先ほどの男性がおずおずと受付嬢に袋を手渡した。それを受け取った受付嬢は俺にその手を差し出した。


「はい、ケント君。私はエレーナよ。これはさっきの魔石の、お・か・ね」


 俺は手を伸ばしたが、受け取る前にアリアがその袋を奪い取った。


「これは私が確かめます! ケント様! 行きましょう!」


 さっさと冒険者ギルドを出ていったアリアを俺は急いで追いかけた。

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