第15話 ステータス

 扉を開けると一斉に視線が集まる。やはりこんな場だ。入って来た者が気になるのだろう。でも、すぐに視線は霧散した。恐らく、取るに足らない人物だと思われたのだろう。別にそれで構わない。


 中の様子は右奥は酒場も兼ねているようで、少しざわついた雰囲気があった。

 正面にはカウンターがあり、綺麗な女性が一人座っている。

 あれが受付かな?


「ケント様、あそこが受付みたいです」


 と、アリアの言葉だ。そう書いてあるのだろう。やっぱり俺の思った通りだった。


「なるほど、ありがとう」


 俺はアリアに一つ礼を言って受付に座っている女性に話しかけた。


「すいません。冒険者登録をしたいのですが」


「ええ、ではこちらの書類にお名前を記入して頂けますか?」


 なんと名前を書かなきゃいけないのか。ってそれくらいはそうか、困ったな。


「あの? 代筆でも大丈夫ですか?」


 アリアが助け舟を出してくれた。ってか今の状況で出来ることはそれくらいしかない。


「代筆? ええ、構いませんよ?」


 お、ラッキーだ! アリアは一つ頷いて紙を受け取って俺の名前を書いてくれた。


「では次にこの水晶に手を当てて下さい」


 アリアの書いた紙を受け取ってから、受付嬢はカウンターの上に水晶を置いた。見覚えがある。ステータスがわかる水晶なのだろう。俺はそっと水晶に手を置いた。


「レベルが10ですね……腕力は65、体力……58、技術……60、敏捷……82、魔撃……36、抗魔……75、となります。総力は……えっと376ですね」


 俺のステータスを受付嬢が読み上げた。実はアリアがシンシア様から魔導具を貰っていたので、それを使っている。ステータスを偽造表示出来る魔導具だ。実際のステータスに変化はないのだが、こういう時に使える。俺のステータスは異常なので怪しまれないように使いなさいとのことだったので、遠慮なく使わせて貰っている。

 その読み上げたステータスを先程の紙にサラサラと書いている。


 シンシア様から聞いたステータスについてはこうだ。

 腕力は敵への直接攻撃に影響を与え、体力は逆に受ける攻撃に影響を与える。魔撃は魔法を使った場合の腕力と同等、抗魔は体力と同等だ。器用さは武器の扱いの上手さに依存し、敏捷が高ければ攻撃を避ける事が出来る。


 そして総力だ。これは全ての値の合計なのだが、どうもこれがレベル上げに影響を与えるとのことだった。


 単純に総力が高ければ強いし、低ければ弱い。そしてその差によって得られる経験が違うらしい。同じ敵と戦うにしても自分が強ければ得られる経験は少なくなるし、自分が弱ければ得られる経験は多くなる。普通はレベルが上がれば総力は高くなり、弱い魔物や生物を倒しても経験を得られなくなるが、俺の弱体紋は逆だ。レベルが上がれば上がるほど総力が低くなり経験を得られるようになる。


 ただ、当然次のレベルまでに必要な経験も多くなるので、弱くなるから簡単にレベルを上げられる訳ではないが、俺以外では兎やキツネを狩ってレベルをここまで上げることは不可能だったらしい。


 そして俺の本当のステータスは全て∞らしい。総力も含めてだ。つまり俺はもう戦うことによって経験を得ることはない。レベルももう上がらない。つまり俺は弱体紋により弱くなることはもうない。それがシンシア様から聞いたステータスについてだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る