第14話 読めない文字
数日かけて魔の森を抜けた俺たちは小高い丘を越えた。少し先を歩いていたアリアの足がピタリと止まる。
「あれがベネザの街です」
立ち止まったアリアの言葉だ。確かに街のようなものが視界に入った。
召喚されてからすぐに魔の森に連れてこられた俺にとって、この異世界で初めての街と言っても過言じゃない。ここからうっすらと見えるベネザの街だが、石の壁に囲まれているようで、中の様子を窺い知ることは出来ない。魔物や敵国に備えてのことなのだろう。所々、物見櫓のような物が見える。
俺は一度頷いて再び歩き出した。
俺たちは、門番が両側に立っている街の入口を、二人並んで通過した。行き交う人々も何人かいる。
「なんだか門番っぽい人がいるけど、結構スルーするんだな」
「国境付近の街ですけど、特に戦争の話もないですしそんな物でしょう。一々、全員の身分を確認するのは難しいでしょうから」
確かにアリアの言う通りなのかもしれない。馬車なんかは中を確認する為に停められているが、人員にも限界がある。どちらかと言えばそちらを重視するのは当然だ。
「さて、まずは……冒険者ギルドだなってどうやって探せばいいんだ?」
俺は立ち止まって腰に手を当ててぐるりと周囲を見渡した。アリアから少しはこの世界のシステムを聞いている。って言ってもアリアもシンシア様から聞いた話でしかないのだけれども。
この世界にも異世界でよくある冒険者ギルドという物があるらしい。これから旅をする俺には登録する必要がある。何をするにもお金が必要だからだ。
と思っていると、アリアはきょとんとした顔で俺をみていた。
「探せばってあそこにありますよ?」
通りの真正面にある少し大きな建物を指さしている。
「え? なんでアリアはわかるの?」
「なんで? って書いてあるじゃないですか? って、あ!」
「もしかして俺は字が読めない?」
とんでもない事実に気づいてしまった。俺は会話が出来るが文字は読めないようだ。シンシア様の所に書物も無かったし、会話も問題無かったから気にしたことも無かった。
どうやら異世界召喚されると自動的に発する言葉と耳に入る言葉は通じるように変換されるみたいだけど、視覚情報までは変換されないみたい。
「こりゃ参ったなぁ」
「大丈夫ですよ! 私が居ますから!」
「ってなんだか嬉しそうだな、アリア」
「あ、申し訳ありません。でも、ケント様のお役に立てると思うと嬉しくなっちゃって」
役に立つどころじゃない。これじゃアリアが居ないとろくに旅も出来ない。アリアが付いてきてくれて本当に良かった。アリアだけじゃなくシンシア様にも感謝しないとな。色々としてくれたし、迷い込んだ俺をまるで自分の子供のように可愛がってくれた。
「いや、いいよ。実際アリアの言う通りだし。これからも頼むね」
「はい! 喜んで!」
そうして俺は冒険者ギルドの扉を開けた。
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