第13話 出立
「ケント様に付いて行ってもいいですか?」
「え? どういうこと?」
「シンシア様から了承は頂いてます。と、言うよりもシンシア様がそうしなさいって。私はシンシア様から外の世界の話を聞いたことしかありません。ここに居る以前の記憶も無いんです。見たこともないんです。せっかくだからケント様と一緒に行きなさいって言われてるんです」
なるほど、俺もこの世界のことは全くわからない。誰かと一緒の方が安心だし、楽しいに決まってる。しかもその相手がこんな可愛い猫耳少女だなんて、断ることなんかできっこない。
「なら、シンシア様に挨拶だけでもして……」
そこまで俺がいいかけると、被せるようにアリアが叫んだ。
「嫌です! 大丈夫です! シンシア様からは付いていくように言われてますから!」
「なんで?」
「だって! シンシア様に報告に行っている間にケント様が居なくなっちゃったら嫌だから! 先に行っちゃうかもしれないじゃないですか? 本当にシンシア様からは大丈夫って言われてるんです!」
アリアが少し涙ぐんでいる。俺はまだ付き合いも短いが、少しはアリアのことを知っているつもりだ。こういう頑固なところも知っている。アリアの言いたいことも少しはわかる。俺が待ってるからといっても、それが嘘だという可能性もあるかも、と。俺は嘘を吐くつもりなんかないが、これからの旅は何が起きるかわからない。嘘を吐いてアリアを置いていこうと考えることもあり得る、というアリアの考えなのだろう。こうなると俺は説得なんか出来ない。あまり言うと泣き出すからだ。可愛い女の子の泣いている姿は俺には刺激が強すぎる。
「わかったよ。じゃあ一緒に行こうか?」
俺の言葉を聞いてアリアの表情がパァっと明るくなった。
「ありがとうございます! じゃあ早速どこに行きますか?」
「何処って言われてもなぁ。あ、プラトンって国は行きたくないな」
「何でですか?」
「俺が召喚されて棄てられたのはその国だからだよ」
「なるほど、じゃあいつか復讐とかするんですか?」
いきなりアリアが物騒なことを言い出した。気まぐれにもほどがある。この辺は猫っぽいな。
「おいおい、いきなり物騒なことを言うなぁ」
「いや、シンシア様からそういうこともあるかもって伺ったもので」
って原因はシンシア様かよ! あの人、多くを語らなくて、秘密もある人なんだと思ってたけど、意外と物騒なことも言うんだな。
「はあ、召喚されたのは俺だけじゃないんだ。俺のクラスメート、って言ってもわからないか。友達も召喚されたんだ。別に彼らに罪はないし、そこまでするつもりなんかないよ。第一、俺のステータスがどんなに高いって言っても多勢に無勢だ。そんなの無理だよ。それに俺はこの世界を楽しみたい。せっかく来たんだからね。それくらいしてもいいでしょ?」
「かしこまりました! じゃあ……プラトンはこっちのはずだから……こっちですね! 行きましょ!」
アリアは一旦右の方へ向いたあと、少し首を傾げて反対の方向を指さした。俺はアリアが指で示した方角へ歩きだした。
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