第11話 覚醒
「さて、次かな」
少しの休憩を終えて俺は立ち上がり、指先が出ている皮の手袋をキュッとはめ直した。この手袋も今着ている服もアリアが仕立ててくれた物だ。
シンシア様曰く、制服だと異世界人だと一目でわかるし、紋章に関しても同じだ。異世界人のことを忌み嫌っている者もいるので、あまり目立つ必要もないだろう、とのことだ。俺も別に制服にこだわりがある訳じゃないので、シンシア様の助言の通り、この世界の人も着ているような服を着ることにした。
あれから数ヶ月の時が経った。段々と弱まる身体に鞭打って、アリアの協力の元、戦闘経験を重ねた。
戦闘経験とはいっても俺やアリアが仕掛けた罠に掛かった兎やリスのような小動物の息の根を止める。果たして戦闘経験といっていいかわからないようなことの積み重ねしか出来ない。
シンシア様がそれで大丈夫だと言ってくれることと、既に数分と動けず、ナイフを持つのも億劫になるほど弱体化された身体が、その行為ですらを戦闘経験と呼んでいい、ということを皮肉にもわからせてくれていた。
「ケント様! こっちです!」
俺が立ち上がったことを確認すると、アリアが次の獲物の元へ案内してくれた。こうやって順繰り息の根を止めていく。もう何百匹、何千匹と殺してきたのかは覚えてない。
アリアの従ってくれる様子はまるで忠犬のようだった。猫耳なのに、忠犬とはこれ如何に? あれ、忠猫ってあったっけ? ま、いっか。
今度の獲物はキツネだ。罠に掛かって動けずにいる。アリアが押さえて確実に仕留められる体勢にしたあと、心臓にナイフを突き立てるいつもの作業だ。
グサリ
ナイフを突き立ててから引き抜く。傷跡から鮮血が飛び散る。何回も繰り返してきたこの作業。しかし、今回はその後が違った。
俺はナイフを落としてしまった。いや、ナイフを落とすだけじゃない、屈んでいることも出来ずに倒れ伏した。段々と重くなるその身体は呼吸をすることすら難しくさせた。それどころか胸が痛い。心臓が悲鳴をあげている。右手の紋章が燃えるように熱い。
クソッ! こんな状態でも戦闘経験を詰めっていうのか! 無理だろ! く、く、くるしい!
これ以上は動けない……し、死ぬ……………………
意識の糸がプツリと切れる瞬間、俺の身体が急に軽くなった。痛みも何も突然消えた。息苦しさもまるで無い。久々に感じる爽快感だった。これは成功したに違いない!
「アリア! やったぞ!」
俺は起き上がってアリアの居た空間に喜びの言葉を投げかけた。
そう、アリアの
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