第10話 弱体紋の秘密

 俺は耳を疑った。この呪われたかのような紋章が最強の力を与えるなんて考えられなかったからだ。


「どういうことなんですか? この弱体紋が比類なき力を与えるなんて信じられません」


 シンシア様はひとつ大きく息を吐いてからゆっくりと話し出した。


「一つ、昔話をしても宜しいかしら」


 俺もアリアも黙ってゆっくりと頷いた。


「遠い遠い昔の話。この世界は魔物で溢れていた時代があったわ。その時代ではこの世界は今みたいに限られた場所でしか魔物が生きられないということは無かったの。その原因となったのは魔物を統べる存在。そしてその影響力。その凄まじい影響力がある限り魔物が蔓延る世界を止めることは出来ない、と誰もが悟っていたわ。そこで、それを止める為に何人もの異世界人が召喚された。けれど、誰もが命を散らすことになってしまった。そのような結果、人々は絶望するしか無かった。でも、そんな絶望の中に現れたのが一人の青年。その青年はまるでこの世界の救世主とばかりに、その魔物を統べる存在を打ち倒した、という話なんだけれども」


「もしかしてその青年が弱体紋を持っていた、と」


 俺は右手の紋章をじっと見た。もし本当ならその魔物を統べる者とやらを倒せる程の力が手に入る。他の異世界人の紋章ですら凌げる程の力なのは明白だ。


「ええ、そうよ。その時はそんな名前では呼ばれてなかったけれどもね」


「でも、どうすればそれ程の力が手に入るのですか?」


「たくさん戦えばいいのよ。いっぱい戦闘をしてどんどん弱くなる。弱くなりすぎた状態でもまだ戦闘を続ければステータスが有り得ない数値になるの。もうそうなると下がることはない」


「でも、それって……」


「そう、言うは易く行うは難しね。既に貴方のステータスはこの世界の住人と比べても低くなってしまっている。ここに居るのがその証拠。弱い魔物でも倒すのは苦労するでしょう。それでもまだまだ足りないの。もっともっと弱くなりつつ、もっともっと魔物を倒さないといけない。当然、戦えば戦うほどステータスが上がる。いや、貴方の場合は下がる、ですね。しかも下がれば下がるほど、倒さなきゃいけない魔物の数は増えていくでしょう」


「…………」


 俺は絶句した。今のこの状態でも身体はとんでもなく重い。それよりもどんどん弱くなり、たくさんの魔物を倒さなきゃならない。出来るのか?


 俺が戸惑っていると黙って聞いていたアリアが俺の両手をガシッと掴んだ。


「ケント様! やりましょう! 私もお手伝いします! この中なら強い魔物は現れません! きっと出来るはずです! 怪我をしてもシンシア様に治して頂ければいいんです!」


「あらあら、アリアったら。ま、私も協力はさせて頂くわ喜んで治してあげる。貴方次第だけどね」


 俺は二人の顔を交互に見た。ここまで言ってくれるのに、俺が折れても仕方ない。どうせこのままじゃ野垂れ死にをするだけだ。騙されたと思って賭けてみるしかないだろう。


「わかりました、やります! お二人とも宜しくお願いします!」


 俺はそう言って深々と頭を下げた。

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