第9話 年老いたエルフ、シンシア
アリアの案内で十分ほどゆっくりと進んでいると木でできた小さな小屋が見えてきた。あそこにシンシア様とやらが住んでいるのだろう。ちなみに疑っていた訳ではないが、アリアの言う通り魔物に襲われることは無かった。本当に強い生き物は入ってこれない結界のような物が張ってあるのかもしれない。
小屋の中心にポツンと椅子が置いてあった。ゆりかごのように前後に揺れる木製の椅子だ。そこに一人の人物が座っていた。その人物は老婆であった。耳は長く小説で良く出るエルフのようだった。年老いていても顔立ちは美しく、若い頃はとても美人だったであろうことは容易に想像できた。
「お帰りなさいアリア。そちらの方は?」
「はい、ただいま戻りました。こちらはケント様です。危ないところを助けて頂きました」
シンシア様の言葉にアリアが頭を下げて挨拶を返した。そして、俺の事をシンシア様に紹介してくれた。
「ケントと申します。危ないところだなんて、偶然通りかかっただけですし。それ以上にアリアに助けて貰いました」
実際にアリアが来てくれなければ俺は死んでいただろう。魔物に襲われても抗うことなど出来なかったのだから。
「シンシア様。ケント様はその時に庇って傷を負ってしまいました。魔法で治して頂けませんか?」
アリアの言葉にシンシア様はゆっくりと頷いて俺を手招きした。
「こちらへ……」
俺はゆっくりと近づくとシンシア様が俺に手をかざした。すると眩い光が俺の全身を包み込む。俺は何か暖かい物に全身を包まれている感覚に包まれた。光が段々と晴れていくと同時に、俺の身体の隅々から痛みが嘘のように消えているのがわかった。
「嘘? 全然痛くない……」
俺は折れていたはずの腕を振り回し、痛かった肋も押してみる。完全に治っている。これが魔法の力か! 凄い! さすがファンタジーの世界だ!
「さて、ケントとやら。少しお話しても宜しいですか?」
「はい、勿論です」
「服装からすると貴方は異世界人ではないですか?」
恐らく俺が着ている制服はこの世界じゃ珍しいのだろう。わかる人は見れば一目瞭然ってやつなのかもしれない。
「ええ、そうですが」
「ならば右手に紋章があるはずです。見せて頂けますか?」
俺は右手の甲をシンシア様の前にかざす。すると、シンシア様は何かを悟ったかのようにゆっくりと頷いた。
「やはり、この紋章ですか」
「やはり、とはこの紋章を持っていると想像してたのですか?」
「ええ、この場所は結界が張ってあり、強い者は入ってくることが出来ません。特に異世界人は基本的にステータスが高い上に紋章の力もある。ここに入ってくることは不可能です。だとすると可能性は一つ、貴方が持っている紋章がその紋章であることと、ここに入ってこられるくらい、既に戦いを経験して弱くなっている。それしかあり得ないと思ったのです」
「でも、シンシア様は弱体紋をご存知なのですか? 城では初めて見る紋章だと言われました。古い文献で調べてわかったみたいです。シンシア様は一目みて弱体紋のことがわかったようなので」
「結論から言うと、知っています。しかし、なるほど……今は弱体紋と呼ばれているのですか。その特性から仕方のないことなのかもしれません」
そう話すとシンシア様はじっと黙り込んだ。俺もアリアもその様子を見守ることしかできない。
暫くそうやって考えこんでから、シンシア様はゆっくりと口を開いた。
「ケント、よく聞きなさい。その弱体紋はあなたに比類なき力を与える最強の紋章なのです」
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