第6話 死の足音

「はぁ……はぁ……クソッ!」


 ドサッ!


 俺は悪態をついて、大きな木の根元に座り込んだ。あれからどれだけの時間が経ったのだろう。あれからどれだけの魔物を倒したのだろう。生きることに必死な俺はどちらも覚えてない。


 辺りはすっかりと暗くなっていた。もう俺の手の中には剣はない。俺が持つには重すぎる重さになってしまったから、途中で捨ててきた。

 口の中には血の味が広がる。左腕は痛すぎて上げることもできない。間違いなく折れているだろう。胸もジンジンと痛い。肋骨も多分折れているだろうが、肺にでも刺さってないのがだろうこと不幸中の幸いか。

 俺は自虐するしか出来ないこの状況に笑うことしか出来ない。


「あはは……まあ……ステータスが下がりすぎて腕を上げるのも難儀なんだがな……」


 左腕だけじゃなくて右腕だって上げるのはかなりキツイ。重りがまとわりついているような感じだ。最初の時に比べても比較にならないくらいステータスが下がりすぎてるのがわかる。腕だけじゃない。身体全体が重すぎるし、正直動くのも億劫だ。スタミナも全然無くなってしまった。動いてはすぐ息が上がって休む。また、動いては息が上がって休むの繰り返しだった。そんな状況で暫く休んでいると、


 パキッ!  パキッ!


 俺に近づく足音が聞こえた。ゆっくりと様子を伺うような足音だが、物音に対して敏感に気を払っている俺には気づくことが出来た。と、同時に息を潜めた。もう動くこともままならない。こんな状態で魔物と遭ったら、死を意味する。やり過ごすしか手は無いからだ。


 ここ暫くはずっとこんな感じだ。息を潜めて魔物をやり過ごしてから移動する。また同じように休みつつやり過ごしてから移動する。その繰り返しだ。正直、死の恐怖で気が狂いそうになる。毎回毎回、見つかったら終わり、の状況だからだ。


 このまま見つからずに魔の森を抜けるしか俺に生き残る術はない。もう、一匹たりとも魔物を倒すことは出来ないからだ。こんなにステータスも下がったうえに、満身創痍の状態で倒せる魔物などいないだろう。


 ……って待てよ。例え生き残ったとして、どうやって生きていけばいいんだ? この身体を抱えてどうやって……?


 そう、俺はふと気づいてしまった。この弱体紋の効果はステータスの低下。戦えば戦うほど弱くなる。今までの感じだと一定時間という訳じゃなさそう。つまり、一生ステータスは戻らないし、下がり続けるとしか考えられない。身動きをとるのも既に億劫なくらいだ。例え生き残ったとしても、この世界で生きていく手段を手に入れられるのか? どこかで働くことなんか出来るのか? すぐ息が上がってしまうようまこの身体で生きていくのは大変なんじゃないか? だったら……ここで、死……


 いや、でもまだ可能性はあるのかもしれない。可能性がゼロになるまでは諦めたくない!


 その時、足音が少し離れた所で一瞬止まった後に、少し速いペースになってこちらに向かってくる。恐らく気づかれたのだと思う。その足音はまるで死が迫る足音のように俺には聞こえた。

 もう抗うことは出来ない俺は祈るように顔を伏せ息を止めた。これでもまだやり過ごすことしか俺には残されていない。やっぱり気付かれていなかったと思うしか、出来ることは無かった。でも、そんな俺の思いを無視するかの如く、俺の真横でピタリと止まった。

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